ダイヤモンド社 常盤亜由子さん

良い上司に出会えたからこそ今の自分がある



ーー影響を与えられた人はいますか?

編集者として影響を受けたのは、やはり何といっても、私を育ててくれた前職時代の上司ですね。いまも尊敬しています。入社1年目の冬に、初めて企画を任されました。といっても、まだ自分1人では企画を立てられないので、直属の上司の企画の実務だけをやらせてもらったんです。

読めば読むほど誤植が見つかる。どんどん不安になってくるんですよ

読めば読むほど誤植が見つかる。どんどん不安になってくるんですよ。

初めて仕事を任されたうれしさで気合は十分なんですけど、何から何まで「限度」がわからないんですよ。例えば、組み上がってきたゲラを「いったい何回読めばいいの?」って。そんなことすらわからない状態でした。不安だから時間が許すかぎり読む。でも、読めば読むほど誤植が見つかる。どんどん不安になってくるんですよ、「え、まだあるの?」みたいな(笑)。

というわけで、不安になって土曜日に休日出勤をすることにしました。事前の届出が必要だったので、上司に休日出勤届けのハンコをもらって。

そして土曜日。出社したら、なんとそこに上司がいるんですよ。土曜日の午前中から会社にいる上司を見て、「きっと奥さんに『掃除の邪魔だからどっか行きなさいよ!』とか言われて会社に逃げてきたんだろうな、ああかわいそうに」なんて思いまして(笑)。

でも休日出社しているわりに、上司は必死になって仕事を片付けるふうでもなく、ただ職場に置いてあるテレビを、音量を絞って見ているだけ。集中してゲラを読みたい私はと言えば、そんな上司のことを「邪魔だな」くらいに思っていたんですけどね(笑)。

そんなこんなで、休日出勤も経てようやくその本は刊行にこぎ着けました。書店に並んでいるその本を初めて見たときは、本当にうれしかった。それだけでも感激なのに、さらにその本に重版がかかったんです。初めて担当させてもらった本が重版できるなんて、最高ですよね。

ーー大挙ですね!

ところが、だいぶ後になって先輩から言われたんですよ。「お前が休日出勤したとき、○○さん(上司)も来てただろ。あれ、お前に付き合ってくれてたんだぞ」と。言葉が出なかったですね。てっきり、奥さんに追い出されたんだと思っていたのに(笑)、まさか私に付き合ってくれていたのだとは。

さらにその後で、別の部署の先輩からもしみじみ言われたんですよ。「お前の記念すべき1冊目の本は、○○さんのたっての希望で重版をかけたんだよ」って。売れ行き的には、“中の上”だったんですよね。ぼちぼち売れてはいるけど、すぐに重版をかけるというほどのものでもない。最終的な仕上がりを考えたら、重版はかけずに在庫を回して売り切ったほうが収支上は良かったんです。

でも、駆け出しの新人編集者にとって、初仕事で重版がかかるかどうかって大きいことですよね。だから、私に成功体験をさせるという意味で、上司はあえて無理を言って重版をかけるように頼んでくれたんです。そんなことにも気づかないで、「私ってバカバカ!」って後になって思いました(笑)。

あの上司の下で働いていたときには、何もかも手取り足取り教えてもらえることが当たり前だと思っていたんですけど、転職して初めて、「私っていい環境で働いていたんだな」と思いました。そういう方に育ててもらったからこそ、いまだにこの仕事を続けていられると思うので、あのときの上司には今でも感謝しています。

ーー尊敬できる人と一緒に仕事をするのはいいことですよね。

それはどんな仕事でもそうですよね。自分の周りに自分以上にやる気やスキルがある人といると、磨かれていきますよね。

人って、下のほうに引っ張られやすい生き物だと思うんですよ。できるだけ楽をしたいと思うし、厳しい環境からは一刻も早く逃げ出したい。私も下に引っ張られやすいので、周りに「これじゃいけないな」と気づかせてくれる人がいると助かります。

私より経験を積んでいるのに私よりはるかに謙虚な人に会ったりすると、冷水を浴びせられたような気分になります。最近勉強してないな、傲慢になっていたな、と。そういう人が周りにいればいるほど、自分にとってすごくいい環境ですよね。

「今日はこれだけ!」



ーープライベートな時間はどう過ごされていますか?

靴を作ってます。誰とも話をせず、ひたすら革を裁断したり、ミシンで縫ったり、釣り込みをしたり……。無言のひとときです。基本的に根暗なんですかね(笑)、一人で黙々と何かに集中する作業が好きなんです。

仕事をしているときは、いろいろなところから電話がかかってきたりしてなかなか集中できる環境ではないので、ときどき「今日はこれだけ!」という集中の場があると、メリハリが効いていていいんです。それに靴作りは本作りに似ているところもありますしね。

ーーなぜ靴なんですか?

何ででしょうね(笑)。小さいころに靴職人の姿をテレビか何かで見たのかな。理由はよくわかりませんが、お裁縫が得意な母の影響もあるのかもしれません。小さいころ、器用に洋服を作る母を見て自分も真似をして服を作ったりしていましたから。「モノを作るって楽しいな」と。

うまい下手は置いといて、洋服なら自宅でも作れちゃいますよね。だからどうせ始めるなら、自宅では作れない、自分1人では何から始めればいいのかすら想像つかないものをやりたくて。靴作りは、まさにその条件にぴったりだったんです。

ーー作った靴は履かれますか?

はい、とてもまだ人に「見て見て!」とは言えませんが(笑)。中身がなくても「本」という形にはなるのと同じで、「靴」も形にはなるんですよ。ただ、「かっこいい靴」「履いていて心地いい靴」となると話は別。そういう靴を作れるようになるまでには、まだまだ修業が必要です。今は自分のペースで作れる学校に行っています。

編集必須アイテム



ーーこれは手放せないというアイテム・グッズはありますか?

・赤ペンと付箋

校正用、色校チェック用のルーペ

校正用、色校チェック用のルーペ

いつも持ち歩いています。

・クリップ

原書と照らし合わせるときに本がパタンと閉じないように使います。

・校正用、色校チェック用のルーペ

トンボ(印刷用の目印)がずれていないか確認するものです。下にぴったり当てて覗きます。細かいアミ点1つずれているだけで仕上がりの色に影響するので、それを確認します。

・Q数表とピッチ表

校正時に、Q数(文字の大きさ)や行間をチェックするために使います。

・書体見本

色見本

色見本

本文組みの指定をするときなどはよく参考にします。その本のテーマや仕上がりイメージによって使う書体を選びます。

・色見本

カバーの色校が指定どおり出ているかを確認する際に使います。
「CMYK(4種からなる色表現法)の色分解で何パーセントくらい」など、デザイナーさんとのやりとりで使うことも。

・長めの定規

トンボからトンボまで引くとき、これくらい長い定規があると便利。

・レコーダー

長く使っている文房具の数々

長く使っている文房具の数々

インタビューのときの必須アイテム。すぐにUSBに接続できるタイプなので便利です。

・ネタ帳

思いついたアイディアをメモします。街でしびれるコピーを見かけたときにも書き留めておいたり。そこからインスピレーションをいただいたりもします。永く使っているものばかりです

(続く)

ダイヤモンド社 常盤 亜由子さん vol.3

更新日: 2010年 4月 28日| このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

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