ダイヤモンド社 市川有人さん

7つの「力」



ーー編集者として身に付けておくといいスキルはありますか?

企画力、好奇心、行動力。これらは一般の社会人にとって誰でも必要なものだと思いますが、それにプラスして今の時代に編集者として必要なスキルって何だろうと考えたとき、浮かんだのが7つの「力」です。

  1. コピー力
  2. 仮説力
  3. 発見力
  4. 決定力
  5. 造形力
  6. 生活力
  7. 哲学

7冊のノートといい、7が相当好きですね(笑)。

コピー力について

先ほども触れましたが、企画はキーワードで考えますし、読者にはキーワードで訴求しますから、言葉は常に意識したいです。

仮説力について

企画とはずばり仮説です。最初から売れるとわかっている本などありませんから。たとえばビジネス書の場合、本作りは基本的に半年のスパンで考えていて、半年後にどんな流行が来るのか、世の中どうなっているのかと考えます。半年後、読者が何を望んでいるのかを予想するわけです。

そのためには、ベストセラーとなっている本を分析したり、各種売上データを読み解いたり、あるいはまわりの人にヒヤリングしたり、ネットで読者の声を拾ったりして、仮説を立てる上での素材にしていきます。

発見力について

実際の合戦はないけど、実は今のビジネスマンにとっては周りを蹴落として登っていこうという、静かな戦国時代なのでは

実際の合戦はないけど、実は今のビジネスマンにとっては周りを蹴落として登っていこうという、静かな戦国時代なのでは

見える人には見えるけど、見えない人には見えないことがあると思います。たとえば、今歴史ブームじゃないですか。歴女とか、戦国武将が取り上げられていると、なぜ今戦国武将がブームなんだろうって考えるんです。それの一番わかりやすい答えは、『戦国BASARA』というゲームがブームになっていることでしょうね。

戦国BASARA

でも、僕の周りの人でゲームを一切やらないのに、最近歴史にはまり始めた人もいます。そうなると、ゲームという要因以外にも日本人としての「原点回帰」というキーワードがあったり、草食系男子に対する反動ということも考えられるわけです。

あるいは、戦国時代って下克上の時代で、信じるものが何もなくて、誰もが自分の力だけを信じて実力で這い上がっていかなければならなかったわけで、これって今の「個の時代」とシンクロしているんじゃないかと。

勉強法が相変わらずブームですけど、それは会社を頼りにせずに、自分のスキルを身に付けて、這い上がっていかなければならないこととも重なっていて、実際の合戦はないけど、実は今のビジネスマンにとっては周りを蹴落として登っていこうという、静かな戦国時代なんじゃないかとか。

こういったことは、たぶん考えない人には発見できないことだと思います。
「なぜ今歴史がブームなんだろうか」と考えないと、単にブームで終わってしまいますよね。そのときに今の時代と重ねると何かを発見できたり、原因を考えることで、新しい気づきがあって、企画のヒントにもなってきます。





著者が打てなかったら、編集者が打つ -決定力-



ーーなぜだろうと常に考えているのですね。

そうですね。見えないものは、そのまま素通りしちゃいますが、見ようとしている人だけに見える情報というのもきっとあると思います。それをいかに発見するかというのが重要なのかな。

あとは決定力です。本を作っていると、落としどころがすごく重要になってくるんですよ。落としどころというのは、何を軸にまとめあげていくかだったり、どんなキーワードや切り口を売りにするか、ということです。

著者が決定力を持っている場合、たとえばサッカーでいうと著者がシュートを打つというケースが多いんです。その先生なら何でも確実に売れるという場合は「どうぞ先生、好きなタイミングでシュートを打ってください」でいいと思うんですけど、そうじゃないケースのほうが圧倒的に多いんですよ。

そうすると、ゴール前で著者と編集者が二人で顔を見合わせて、どうする?となってしまいます。その時は、最終的に著者がシュートを打てなかったら、編集者が打たなければいけないんです。
最終的にどこに落とすのかがわからず、ふわふわってなんとなくどっかで着地して終わり、一応形になりました、ではなく、どういう風にすれば売れるのかというのを、編集者がちゃんとわかった上で著者にシュートを打ってもらうようにサポートするべきですよね。

あるいは著者が打てなかったら、編集者が著者の代わりにさりげなく、著者の後ろからまるで著者が打っているかのようにシュートしてあげるとか。工程を重ねていくうちに、企画の筋がだんだんぶれてくることもあります。

そのとき、著者を正しいシュートコースに連れ戻すことも編集者の仕事です。でも、それ以上に重要なのが決定力です。編集者はときに自らシュートを打つことも大切です。点は入らなかったけど実に美しい試合運びだった、では意味がないと思います。

ゴール前で「先生お願いします」って言ったほうがずっと楽です。でも、僕の場合は、編集者がシュートを打つというスタンスでガツガツとグランド中を走り回って作った本のほうが上手くいくケースが多いですね。編集者は司令塔でもあり、ストライカーなんです(笑)。

造形力について

本はモノだと思っているので、カバーやオビ、見出しや見出しの入れ方、目次のつけ方など、デザインも含めて、彫刻を彫っていくのと同じように、一個一個にていねいに趣向を凝らしていく必要がありますよね。

なんとなく作りましたではなくて、購入で迷っている読者の目線がどう動いているかを予測して、本のあちこちにトラップを仕掛けて形にしていくという造形力は大切です。

生活力について

やっぱり編集者って本をたくさん読んでるので、マニアックになりがちですよね。なので、きちんと生活することがすごく重要なことだと思っています。

流行ものだからと馬鹿にしていると、だんだん感覚がずれてくるので、普通の人に向けて本を作っている限りは、普通にきちんと生活しないと読者が本に何を望んでいるのかわからなくなります。

たとえばゴミ問題。私も家でゴミの担当をやらされていて、面倒くさいなと思っていたんですけどね(笑)。去年の10月ぐらいにゴミの捨て方が改正されて、これまで燃えないゴミとして扱っていたものを、一部燃えるゴミとして捨てるようになったんですよ。

ちょっと待てと。これまで苦労して分別してきたのに、それはおかしいんじゃないかとすごく疑問に思いました。それで、すぐに当時ベストセラーになっていた『偽善エコロジー』(武田邦彦・著)を読みました。この本の真偽はわかりませんが、多くの読者がうすうす感じていたことがずばり書かれていました。

偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書)

生活の中にゴミ捨ての問題がなければ、ゴミの分別については一切考えなかっただろうし、この本がなんで売れているのかの意味もわからなかったと思います。

最後に哲学

最終的に編集者が何をやりたいかというのを明確に持つ必要がありますよね。
長年本を作っているとぶれてくるので、自分が本当に何をしたいのかっていう哲学を持ってないと、売れればいいじゃんとなってしまい、どんどん変な方向に行ってしまいます。自分がどういうものを作りたいのかというのをしっかりと明確にしておく必要があります。

さらに、すごいなあと思う編集者は、世の中に対して何を訴えたいのか、本で社会をどうしたいのか、そのために自分は何をするべきなのかが明確に見えています。

なんとなくやっていると、なんとなくの本しかできませんよね。編集者というと、熟考して本を作り上げていく職人のイメージがありますけど、実際はモノ作りより、「伝える」という伝達者としての側面のほうが本当は強いんだと思います。

(続く)

ダイヤモンド社 市川 有人さん vol.3

更新日: 2010年 4月 28日| このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

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