PHP研究所 太田智一さん

PHP研究所 太田智一さん

PHP研究所 太田智一さん


第七回目にご紹介するのは、
PHP研究所 太田智一さんです。


ドアラのひみつ
東大生が選んだ勉強法
などヒット作をご担当されています。


ざっくりはっきりした口調の中に
変化球と奥深さを持った
素敵な男性です。




イメージを共有すること



ーー編集者のお仕事を始められて何年になりますか?


今年で9年目になります。大学卒業以来、ずっとPHP研究所で働いています。

ーー会社に入られたきっかけは?

本当のことをお話しするのはすごく恥ずかしいんですけど(笑)、私は大学で留年しまして……それで、同学年になった後輩たちが就職活動の時期になって、その中の一人から「こういう会社が募集してるけど、一緒に受けませんか」と誘われて受けたのが、今いるPHP研究所だったんです。で、そのまま内定をもらって入社しました。将来に関わる重大な選択をこんな決め方をしてよかったのか、今でも軽く悩みます(笑)。

実は留年する前年に、地元のメーカーから内定をもらっていました。実家のある静岡県浜松市に帰って、親元で暮らしながら働こうかなと考えていたんです。どうにかこうにか大学まで行かせてもらったし、両親に恩返しをしなきゃいけないと。そこで、内定をもらって、すぐに親に報告の電話をしたんです。

当時、弟も実家を出ていて両親は二人暮らしだったので、喜んでもらえると思って。ところが、父親は「お前、本当にそれでいいのか?」と。頭が真っ白になりました。電話を切った次の瞬間、内定先の企業に電話して内定を辞退の連絡をしていました。もう完全に勢いですね。僕は主体的に自分の生き方を考えていなかったんです。それを親に気づかされました。ただ、勢いで内定を辞退したものの、さてその先をどうしようと。そこで、とりあえず留年しちゃえ!と。モラトリアムを延長すれば、じっくり考える時間も生まれるだろうと、浅薄な考えで。

で、晴れて大学5年生になったわけですが、先ほどお話ししたとおり、大して考える間もなくここに受かって、そして決めてしまいました(笑)。留年前の賢者モードとは何だったのかと(笑)。モラトリアムとは何だったのかと(笑)。ただ、PHP研究所は、「確固たる理念がある」「コンテンツを扱っている」という点で働くためのいい環境が整っていそうだと感じました。自分に何が出来るのか、全くわかりませんでしたが、とりあえず、できる限りがんばってみようかなと思ったんです。

ーー編集者になると決まったときはどうでしたか?

まるで予想してなかったので驚きました。もともと僕は、漠然とウェブ関連の仕事がしたいな~と思っていました。PHP研究所が持つコンテンツを活かして、ウェブ媒体かなにかでやりたいなと、なんとな~く思って入社したんです。当時、HTMLを書くことくらいはできたので、それとな~く、関係のある何かをやらせてもらえないかな、なんて。ところが、残念ながら本を作れという話になりまして(笑)。そんなに読書家だったわけでもなかったので、いきなり本を作れと社命を受けましてかなり戸惑いましたね。

ーー今だから言える失敗談はありますか?

「今だから言える失敗」に当てはまるかどうかわかりませんが、入社2年目に壮大に著者と揉めたことを思い出します。装丁デザインを著者に見せたところ、「こんなの絶対に嫌だ」と言われてしまったんですよ。「嫌」って(笑)。著者曰く、「ちょっとやぼったい。おしゃれさもなければ、かわいさもない。」と。でも僕はあえてそういうものを作ったつもりでした。かわいすぎても、かっこよすぎても、“そのテーマ”には相応しくないし、読者が手を伸ばさない、という確信を持っていました。おしゃれさではなく、「一番売れるデザイン」だという意図をもって、デザイナーに作ってもらったのです。

そういう点を丁重に説明したんですけど、全く納得していただけず、3時間ぐらい電話で話した末、こちらが押し切ってしまう形でどうにか了解を取りました。最終的にその本は20万部くらい売れたのでよかったですが、その時はもし売れなかったら、自分はただの大馬鹿野郎でしたね。

本来は、事前にちゃんとこちらのイメージを著者に伝えて、共有しておくべきだったんですよね。最終的には力業で、著者を同意させる形になってしまいました。これは本来は避けるべき手段ですから。

ーー著者との揉め事はよくありますか?

さっきの例のように、やっぱり入社して3年目くらいの間はいろいろありましたけど、最近はめっきり減りましたね。仕事の全体的な流れを把握して、リスクに先回りして対応できるようになってきたからだと思います。完全にとは言えませんけど。

編集者は元々書いてくださる著者・作家がいて成り立ちます。確かに編集者は本を作る上ではプロということになっていますが、「書くプロ」は著者ですから。また、その文章の中で取り扱うジャンルの専門家も著者なのです。
だから自分がいいと思うものが全て正しいなんて思えないんです。すごく自信がないんです。たまに自信たっぷりに仕事を進めることができる編集者がいて、うらやましいなと思います。

ーーということは、著者の方が最優先なんですね

それは違います。そこが難しいところなんですよ。先ほど僕は「自分が正しいとは思えない」と言いましたが、だから葛藤するんです。著者やデザイナーが生み出すものに敬意は払いますが、それが「完全に正しい」とも思えないことのほうが多いです。

この原稿は、このデザインは……どこまで、自分の考えを押すか、退くか。「今自分がこの原稿は面白い」と思った感覚は本当に正しいのか。自分だけが面白いのではないか。マスの感覚は、これをどう判断するか。何が最良の選択なのか。その判断の度に神経を擦り減らす思いです。
ただ、トラブルを減らすためには、できるだけ早い段階で著者にしっかりとイメージ示して、ゴールを共有する。「イメージ」とはたとえるなら船です。ゴールという目的地にたどり着くための船に乗っかってもらえればいいんです。イメージが明確に共有された船は、とても丈夫で早い。沈むことはありません。頑丈な船で漕ぎ出でてもらえれば、すごくいい本になると思っています。

「イメージ」というものは、目に見えないものなので、じっくりお話しをしたり、ラフなどのビジュアルを作ったりなどできる限り、具体的に共有できるようにすることが大切だと思っています。そうすれば、自然と揉め事は少なくなるのではないでしょうか。



出会いは「飲み歩き」の中に



ーー著者の方はどうやって見つけていらっしゃいますか?

難しい質問ですね(笑)。強いていえば、さまざまな出会いに頼っているというか(笑)。「探す」という意味で、特に意識しているのはネットです。特に若年層は、いまやテレビを見る時間より、ネットを見ている時間が多い人たちのほうが、多数派ですから、この中に飛び交う情報っていうのは、つぶさに観察していくと宝の山なんじゃないかと思いますし、実際、それが著者につながって、売れる本につながっていくことも多いです。

テレビならば、視るのはCSが中心です。ここは多チャンネルゆえに、扱うテーマが専門的で、かつ登場する人も、知る人ぞ知るというケースが多いです。そういう人たちが本を出すのにちょうどいいタイミングだったりします。ちなみに地上波はあまり見ません。地上波で流れる情報は後追いのものが多いですので。

「足で探す」場合もあります。積極的に著者などと飲んでいくうちに広がっていった人脈の先に、興味深い方が登場してその方が著者になることも多いです。ですので、私は、私が面白いと思う方から紹介される人には、必ず会うようにしています。こうして、人がどんどん、つながっていくんですよね。意外なところに意外な人がいて、それこそ休みの日に仕事とは関係ないことをしているなかで、出会った人たちが著者になっていくというケースもありました。

だからプライベートと仕事はもうごちゃまぜです。仕事とも、プライベートとも思えない、「何か漠然とした毎日が人生」という状態です。オンとオフをはっきりと分けて生活できる方がうらやましいです。あ、うらやましがってばっかりですね(笑)。

ーーやっぱりお仕事が好きじゃないとそういう考えには至らないですよね。

そうなのかもしれないですね。でもね、もう大変ですよ。仕事は。ほんとにね(笑)。僕は、編集者は本をたくさん売らなかったら存在価値がないと勝手に思い込んでるんです。あえてそうしているわけじゃなく、そう思ってしまうんです。

というのは、いくら「いい本が出来た!」って言ったって、そこに読者がいなかったら、全く意味がないんです。本はできるだけ多くの人に読んでもらうためのものですから。著者も自分の本が売れて喜ばない人はいませんし、著者も読者もどちらも、喜んでくれるっていうのは働く意義を感じます。それゆえに、プレッシャーはやっぱりきついです。

会社とか上司から具体的にハッパをかけられるということではなく、勝手に自分の中で常にそのプレッシャーを感じています。完全に自家発電です(笑)。ある程度、数字が出てないと安心できません。それくらい危機感を持っているのがちょうどいいのかもしれない、とも思いますけどね。

(続く)

PHP研究所 太田 智一さん vol.1

更新日: 2010年 4月 28日| このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

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