

「リア充な私」「オタクな私」この二面性が現代社会では求められます。
広い実感と深い考察
ーー編集者に適正があるとしたら教えてください。
極めて私の個人的な見解ですが、必要な2つの柱があると思います。1つは、世間に対して俯瞰的な視点をもって流行と相対すること。2つ目は、流行とはまったく関係なく定点観測をすることです。乱暴に言い換えれば、「リア充な私とオタクな私」と言えます(笑)。わかりにくいですか?
「リア充」とは、「リアルな生活が充実している人」のことです。ご存知の方も多いですよね。ネットスラングに近いのですが、しっかりと流行にも乗り、年齢相応の充実した生活をしている隙のない方々たちと私は定義しています。いっぽう、オタクは……分かりますよね?ただ、私が言う「リア充な私」とは、単に「流行のことをする、流行のものを買う」とかそういうことではなく、世間の流れを俯瞰的に見て、「流行」という波が起こる先に常に自分を置くよう努力するということです。
“今、これが流行っています”とメディアを通じて知ったときには、“すでに多くの人が流行にのっている”現象を伝えているということですよね。編集者として、「それを知ることは、大切ですが、いっぽうでは知った段階では、もう遅いのだと思います。自分自身は、前のめりで、“流行”という現象が起こりそうな先に自分がある状態にしなきゃいけないと思うんです。
後で「流行しているという現象」を知った場合は、「流行」が「過去の情報」になっているわけですから、その現象の先に何があるかと考える姿勢を持ち続けることだと考えています。何しろ本を作るのには時間がかかります。著者でもテーマでも、もたもたしている間に他社本と競合してしまったりします。ベストセラーも数ヶ月、数年経ったら「過去の物」になってしまいます。だからこそ、著者の価値、その本の価値を最大限まで高めるために、本が「過去の物」にカテゴライズされず、「将来的にも伸びる可能性があるもの」にしようと常に心がけています。
ーー客観視することが大切でしょうか。
そうですね。客観的に流行を捉えるということです。とはいえ、「流行っている」とか「みんながやっている」ことを「知る」というだけでは足りないと思います。「わかっているつもり」になってしまった自己体験がないものは、頭の中のイメージの中だけでしか形になってないんです。でも、それって結構間違っている可能性があるんですよ。
テレビやネットなどで「今、この商品が大ブームです」というのを見て、「流行ると思ってた」とか「あの商品ってあんな感じだ」とか「捏造乙」とか、触れもしないで決め付けてしまうのは、仕事の幅、ひいては自分の幅を狭めてしまうと思います。気になることがあれば実際に触れてみて実感する。またはあえて嫌なこと、嫌いなことも、あえて、本当に嫌かどうか実際にやって確かめてみたほうがいいと思います。その上で嫌だったら「嫌い」って言えばいいんですよ(笑)。無理に好きになる必要はありません。むしろ実感してみることが大切です。大衆がどういう物や現象を嗜好するのかを自分の身体を持って知れば、より客観的な視点が得られると思います。
ーーもうひとつの「定点観測」とは?
もうひとつ重要な柱、「オタクな私」であり続けるためには、“定点観測”を続けるということです。つまり、自分が好きなことや趣味を徹底的に深掘りして、突き詰める姿勢を持ち続けることです。傍から見たら「なんでそんなにお金を使うのか」とか「時間の無駄」だと思われたって、貫き通したい自分の「好きなこと」がある人は、お金とか名誉とかそういった、人間の見得とは別の衝動で突き動かされています。そして、必要以上に深い考察をします。また、感情を共有したいという感情から、同じ極まった趣味を持つ人同士が強力なコミュニティを作ります。そういう感情や世界を知ることが求められます。
これは「マイナーなことをしよう」ということでありません。「マニアックになろう」と言っているのです。やることが、メジャーだろうが、マイナーだろうが、どんなことでも徹底的につきつめたらオタクです。よく「流行にもマイナーなものにも両方チャレンジして広い視野を」と言いますが、私はこの表現には同意できません。
正確にいうと、チャレンジすること自体はむしろ良い事ですが、「これはマニアック」だという決め付けが、その先にある「まだ見ぬ可能性」を見えなくさせてしまいます。世間の中で「誰も知らない」ということは、「これからみんなが知ることになる可能性」が存在するわけです。いっぽうで、「これは流行っているらしい」なんて誰かに話したときには、聞いている人は「今さら(苦笑)」なんて、まあ、直接口にはしませんが、そう思われていることが多い時代ですし。
「リア充な私」で広い部分での実感を、「オタクな私」で奥深い部分への考察を、この両面を持つことがポイントです。「リア充な私」が横の軸で、「オタクな私」が縦の軸とすれば、この縦に深く伸びる軸があると、様々なことに対しての理解能力って高くなるし、それを形にすることで実行力も付いてくると思います。
オタクであるということ
ーー編集者というとゼネラリストというイメージがありますが。
ゼネラルな視点ももちろん必要です。それが「リア充な私」に当たります。ただし、今、過去形でお話したのは、時代が変わって、編集者に、さらに高度なものが求められている気がするからです。
それはこのオタク化している社会と時代です。これはネットワークが発達した現代だからこその現象です。一見、普通の生活をしている人たちでも、何か一点、深く突っ込んだ趣味や嗜好を持っている人が増えています。かつては、マニアックな情報というのは、手に入りにくいものでした。しかし、ネットの発達により、さまざまな情報が手に入るようになりましたし、また好事家同士がネットワーク上で、その高度な知識を共有してしまっていて、もう単に“一般の人”とか“市井の民”なんて言葉がなくなっています。“すべての人がプロ”のような時代になってしまいました。ここで言う“プロ”が“オタク”と言い換えられます。だから、編集者がまんべんなく、様々なことをある程度知っておけばいい、という姿勢では、読者の高度な要求に応えられない時代になっていると思います。
例えばビジネス書。このジャンルは、“オタクのジャンル”だと思ってます(笑)。ちなみにこのオタクという言葉をネガティブに捉えている方がいたら、考え方を改めてもらいたいんですが、私はしばしば褒め言葉として使います。それはさておき、なぜ、オタクなのかいいますと、ビジネス書の読者は、総じて、極めてビジネス書が好きな方が多いんです。そういうお客様に喜んでもらうためにどうしたらいいかは、やっぱりビジネス書の世界に深入りしないと見えないんです。
僕の経験で振り返っても、ビジネス書をたくさん売る編集者の方って、やっぱりビジネス書が好きな人が多いと思います。その編集者は自分で楽しんで読めるものを作って、みんなと同じように共有している感覚なんですよね。それがやっぱり一番強いですよ。
「ビジネス書」と聞くと難しい、堅いというイメージを持つことが多いと思いますが、意外に読みやすいもののほうが多いと思います。なぜなら、ビジネス自体が難しいから、ビジネス書という存在が求められるわけですから。本はその難しいビジネスをなるべく分かりやすく伝えてなければならないし、楽しく読めるものでなくてもならない。それが上手に出来るのもやはり、自らが読者の代表になれる、ビジネス書好きな編集者なんですね。内容は深いけど、書き口はやわらかく、というのは本当にビジネス書が好きな編集者にしか出来ない技術でしょうね。
ーーちなみに太田さんの縦の軸というのは?
……え? 私ですか? 言わなきゃだめですか?
……最近の趣味はディープ・パープルです。
ーーどういう意味ですか?
はい、あの、すみません。えーと……70年代を中心に活躍したイギリスの偉大なバンド、ディープ・パープルがあまりにも過小評価されているのではないかと、再評価されていないのではないかと、仲間内で盛り上がりまして……。必ず再評価の時が来るはずだからその前に我々がやろうと。キムタクのドラマの主題歌になる前に、我々が取り上げようと。ということで、私がドラムを叩き、Smoke on the water と Highway Star と Burn を完コピーしようと練習してます。当方完全アマ志向で、ライブの予定はありません。練習のみです。なお、ジョン・ロード(key)を絶賛募集中です。
あとは野球ですね。僕は子どもの頃から野球をやったことがなくて、ある日、突然啓示を受けまして「自分の人生に足りないのは野球だったのではないか」と(笑)。それで、自分でチーム作って、監督として運営をしていました。今年は僕が忙しくなりすぎて運営がキツくなってしまったので、自分のチームを休止して、私を含めた主力選手数名を、とある広告会社の野球部に「吸収」させるという、大型M&Aを実施しました(笑)。
ちなみにプロ野球観戦もします。チームにかかわりなく球場で見ています。3年前くらいに神宮球場のレフトスタンドでなんとなく「ラミレスー!!!」と連呼してみたら、ラミレス選手が僕にボールを投げてきてくれて……あの時はほろりときました。
野球のチームを運営するって、けっこう大変なんですよ。最低18人のスケジュールを調整しなきゃいけないし、審判の手配とグランドの確保も必要だし、道具も重いし。ただ、その大変な中であえてやっている人たちは、野球に対する愛情が異常に深い人が多い。だからお互いに通じ合いやすいんですよね。様々な職業の人が集まってきますけど、そういう場にいるとやっぱり似たような仕事している人に出会ったりなんてことも、あったりします。
テレビ好きでもあるので、自宅にいるときは、延々とCS放送を見ていますね。最近「アニマックス」というチャンネルで見た、「じゃりんこチエ」がすごく面白くて。子どもの頃は「地味で面白くない」と思ってたんですけど、改めて見たら妙に目頭が熱くなるんですよ。大人になって初めてあの魅力がわかりました。地上波なら、絶対に毎週土曜日NTVの「ぶらり途中下車の旅」は見逃せないです。この番組は素晴らしく美しいですよ。
私のベスト旅人は舞の海秀平さん。舞の海さんが出演すると分かると、キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!と大興奮です。もちろん阿藤快さんも、車だん吉さんもキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!です。そもそも舞の海さんが旅人だと何がいいかというと、目黒でパンツを……
ーーあの……もうそのへんでけっこうです。しかし、趣味が幅広いですね
失礼しました。「ぶらり」の話になるとつい……。よくうっとうしがられます(笑)。少ししゃべりすぎました。幅が広いというか、自分勝手でひねくれているだけだと思いますよ。みんなが注目してなければ、いないほど燃えると言うか。だからこそ、自分たちで何か「価値」を生み出せないかって思うんですよ。もうそんなの人気ないよね、とか、そんなの誰も知らないと言われると、異常に燃えると言うか(笑)。こんな生き方でいいんですかね?







[...] (続く) [...]