
価値を作るという作業
ーー価値を作るというのは、本作りにもつながっているのでしょうか?
つながっていると信じています(笑)。すでにベストセラーもあり、数冊も著書がある有名な著者の本を作ることは、売れなければならないというプレッシャーもありますが、もとより知名度が高かったり、ファンがついていたりするので、安心感もあります。一方で、メディアへの露出が少なく知名度がそれほど高くない著者の場合、この一冊の本がその著者のイメージの全てになるんです。だから、この名前が印象に残るようなものにしていかなければいけない。彼らの価値を高めることが間違いなく必要になってきます。
最近私が担当した本の例であれば、『会計天国』。これは小説形式で会計と決算書について学んでもらおうという狙いの企画でした。小説は、いわゆる“作家さん”が書かなければ、なかなか読んでもらえないものです。著者の竹内謙礼さんはコンサルタントで青木寿幸さんは会計士。世間の方々の持つイメージは“小説”とはかけ離れています。しかし、原稿はいい。
そこで、そのギャップを埋めるために、装丁のイメージにはかなり力を入れたつもりです。デザイナーさんと話をじっくり詰めて、この原稿が面白そうに見えるためにはどうしたらいいんだろう。著者の肩書きとは関係のない“小説”形式本を読んでもらえるか、といろいろ思案したのです。
本のビジュアルイメージが著者と内容の価値を高めてみせれば、手に取る読者はこの本は良い本だ、この著者は良い著者だと思えるものです。これは著者の書いた内容に編集者が自信を持っている前提です。そして、その本が売れたという事実が著者の価値をさらに高めていきます。でも、本が売れる前は、多くの人はその著者のことを知らず、なんとも思っていなかったはずなのです。だから、編集者が先頭に立って付加価値をつけて、著者の魅力とか実力を多くの人に伝えられるような仕事にしていかないといけないといつも思っています。
つまりただ単に売れればいいっていう考え方を私はしないようにしています。売れる本っていっぱい出ますけど、そのまま流れていってしまうものもたくさんあるんですね。そうではなくて、売れて、かつ、長く残っていくものにするためにはどうするか。著者が時間がたっても「私はこういう本を書いています」と胸を張って言えるようなものにするためにはどうするか、を常々考えています。

売店で買ったブレスレット。人がいかに先入観を持って物事を見ているか、このブレスレットが象徴しています。
他人の評価する価値というものは、とてもあいまいです。例えば、このブレスレットは北海道旅行に出かけた際に、とある有名観光地の売店で買ったんですよ。デザインがとても気に入ったので。それで、しばらくこれをつけていたら、お世辞かもしれませんが、「それいいね!」と言ってくれる人が多くいました。そこで、私は、その人たちに「どこで買ったと思う?」と質問したんです。すると「青山? 代官山?」なんて答えが続出で。
物がよければ、観光地の売店で売っているものも、青山で売っているものも同じ物に見えるわけです。もし先に「売店で買った」といったら、そんな青山的なイメージなんて持たない人が多いでしょう(笑)。
ーー価値ってそんなものなんですね
そうなんですよね。バックグラウンドは関係なくて、見えているものが重要。この見えているものが、いい雰囲気をかもし出していたら、それだけ価値なんですよね。だから、僕たちがいかに「この本はとってもいい本です」と叫んだところで、「いい雰囲気」を出していなかったら、本は買ってもらえません。著者とその原稿の価値をどうやって増幅して見せるか、または加えていけるかっていうことが僕ら編集者の仕事の重要な部分でしょうね。
ビートとランニングマシン
ーー普段気をつけていらっしゃることってありますか?
よく走るようにしてます。体が動くような状態じゃないと、やる気も出ないし、運動することによって逆にものすごく頭が冴えてくるんですよ。出社する前にジムのランニングマシンで走ってから来ることがあるんですが、音楽を聞きながら走るんです。
ただ、聞くだけじゃなくて、その曲の四分音符に合わせて足を絶対動かすというルールを設定して走ります。1234、1234ってこれに遅れたらダメ、早くてもダメと。それを35分から40分ぐらい毎回続けます。だんだん体力ついてきたと思ったら、マシンのスピードを上げるとともに、どんどんテンポの早い曲にする。リズムが合う曲は、パンクっぽいのが多いですね。こういうことをしてると、心地いい疲れで変なモヤモヤが取れるんですよね。
疲れているときに運動すると身体はさらに疲れるんですが、気持ちの疲労は取れますよね。僕はそっちの方が重要だと思うんです。デスクワークが多いので、心が疲れてると、身体も動かなくなりますし、何もしたくなくなりますからね。
本で読んだ記憶があるのですが、確か村上春樹さんも泳いでらっしゃって、体を動かさないと頭が働かないタイプとおっしゃっていたような気がします。すっごく同感できます。
自分の好きな曲の四分音符に合わせて場合によっては八分音符でもいいんですけど、その曲に合わせてステップを踏むんです。これくらいなら大丈夫かなというスピードの曲でも、実際に走ってみるとかなり早く感じます。携帯音楽プレーヤーさえあればどこでも気軽にできますので、ぜひ試してみてください。








[...] (続く) [...]