
大ヒット作!!『ドアラのひみつ』
ーー『ドアラのひみつ』のお話を聞かせてください。なぜドアラだったのですか?
理由は2つあります。ドアラを応援する人たちの強烈な圧力を感じる反面、メディアにほとんど取り上げられてなかったこと。もうひとつは、このドアラがマーケットの変化の象徴なのではないかと思ったことです。
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この本は2008年2月に出版されたのですが、ドアラ自体の人気は2006年の夏から秋にかけて特にドラゴンズファンの中で火がついていたと思います。ドラゴンズがリーグ優勝したことも大きかったのですが、ファンの中でのドアラへの愛情が高まりに高まって、2007年の初めのころ、その愛情が外にあふれ出て行く形でドアラの動画を動画サイトにアップする人が出てきました。そこでさらに人気を博して、野球ファン以外の新しいファンがさらに増えていました。特に8月以降は、クリエーター系の人の間でも話題になっていました。面白かったのが、誰もが誰も「ドアラがいいと思っているのは自分たちだけで、他の人には伝わらない」と思っていたことです。
なぜなら、東京を中心とした「マス」なメディアでは全く取り扱われることはなかったからです。多くの人が「最近、人気が衰退しているといわれるプロ野球の、しかも名古屋の中日ドラゴンズという渋いチームの、さらに選手でもないマスコット。それに多くの人気が集められるわけがない」という先入観がありました。
でも、現場では違いました。2006年の終盤にドアラが東京ドームに来たときも、ドアラを中心にスタンドのお客さんは盛り上がっていましたし、2007年の夏にドアラが横浜遠征した時も、ドアラ目当てのお客さんが球場に相当集まっていました。現場で起こっていること、本当にユーザーが存在するということ、そういうリアルをマスメディアと先入観が隠してしまっていると言えるかもしれません。
ーーQ&Aのところがツボです
ありがとうございます。これはドアラに直接質問して得た、生の答えですからね(笑)。よく色々な方に「本当は誰が書いたのですか?」と聞かれることがありますが、ドアラに決まっているんですよ。ドアラ著なんですし。彼ががんばって書いたんです。あと多いのが「中の人はどんな人?」と質問されること。中に人なんているわけないんです。だからそういう質問をしてきた方に、「あなたの中に人は入っていますか? それと同じです」と答えるようにしています。
編集・制作はすごく大変でしたよ、この本は。肉体的、精神的共に相当追い込まれながら製作していましたから、死ぬかと思いました(笑)。撮影は一日だけで、構成から取材まで全部考えて、結局2週間ぐらいでつくりましたからね。3徹4徹でもやらなきゃ間に合いませんでした。というのは、発売1ヶ月前から予約が始まっていて、いきなりものすごい注文数が集まってしまって、ファンの皆さんの大きな期待がこちらに伝わってきていたので、「喜んでもらえるものを作らなきゃ」というプレッシャーもすごかったんですよ。
その甲斐あって、一冊目を出したときの反響は、もうすごかったです。東京でも3書店さんでサイン会を開いたんですけど、整理券の配布日には徹夜の行列ができたんです。とにかくすごかったです。発売後も大きな話題になったため、テレビやら新聞やらネットニュースやらの私に対する取材が大量に押し寄せて、1ヶ月くらいはマスコミ対応だけで、1日の仕事が終わっていました。しかも、僕自身も、他社の編集者などに「ドアラの人」とか、「おいドアラ!」なんて呼ばれるようになってですね、困りましたよ、ほんとにね。
ーードアラとの仕事はどうでしたか?
大変でしたけど、楽しかったですよ。彼は言葉が話せないから、最初はコミュニケーションが難しかったんですが、だんだんとジェスチャーから言っていることが分かるようになりました。意思疎通ができるようになると、どんどん楽しさが増してゆきます。
彼は自分で言うとおり、本当に人見知りなんだと思いました。最初はけっこう遠慮がちだったのが、一緒に本を作ってイベントをこなして、共有する時間が増えれば増えるほど、ちょっとずつ目を合わせてくれるようになりました(笑)。性格は本に書いてあるとおりだと思います(笑)。
今年の2009年2月には、ドアラの2作目『ドアラのへや』とともに、東京ヤクルトスワローズのつば九郎の『つば九郎のおなか』という本を同時に制作しました。取材中は腹筋が破壊されると思うほどに笑ってばかりでした。できるだけ、本に表現できればとおもったんですが、みなさんのご感想をお聞きしたいところです。
3月には、『ドアラのひみつ手帳2009』も制作しました。ドアラの手帳がないと思っていて、「だったら自分で作っちゃえ」と思ったのが、これを作ろうとしたきっかけです。この手帳はたいへん評判がよくて、ドアラからも「使ってる」と言われました。ありがたいですね。いっしょうけんめい作った甲斐がありましたよ、ほんとにね。外見、普通の手帳っぽくて、まさかドアラの手帳だとは思わせないのが今回の狙いでした。コンセプトは「隠れドアラ」です。「できるコアラの高度な要求にもこたえる機能性、ワンランク上のコアラを演出するビターなデザイン性」と私が帯のコピーを書きましたが、これがそのまま特徴です(笑)。
この「できるコアラ」っていう表現は微妙なところなんです。そもそもドアラは、自分がコアラだとは認めていませんからね。本の中でも「似てますか?」って書いていますからね(笑)。ただ、僕に言わせれば、顔だけはどこからどうみても「コアラ」なわけで。コピーは販促物であくまでも客観ですから、あえて書かせて頂きました。正直、この手帳にも反省点もたくさんありました。とにかくドアラとの仕事の中には、勉強させられることが多くあります。ドアラと付き合い始めた2年、本当に学ぶことがたくさんあって、感謝しています。
ーービジネス書をやられている中で『ドアラのひみつ』はいいアクセントになったんじゃないですか?
そうですね。アクセントというには、少々ハードでしたが……。でも実はこの企画は、経営や経済の本を常日頃つくっているなかで、ずっと感じていたことから派生したものなんです。
書籍の編集をしながら、マス媒体の信頼性が下がっているなかで、本の存在意義とは何だろうかと、ずいぶん前からずっと考えていたんです。マスメディアで取りざたされる情報と、実際の社会とのギャップがどんどん大きくなっていると感じていて、情報が細分化されて、マスメディアがすべての情報をフォローできなくなっていると思ったんです。そうすると、本当に現場とか現地で支持されているものっていうのは、メディアの影に隠れたところにいるんじゃないかと。特にネット上にはそういう存在があるんじゃないかと。マーケットは大きく変化しているのではないかと考えるようになったんです。
そういう視点で特に2006年頃から、ドアラを意識するようになりました。それ以前から存在は知っていましたし、ネットで不思議な支持を集めていることに気がついてはいました。ただそれが、自分の仕事で対象とする「多くの読者さん」に値するものとは全く考えていませんでした。ただ、先ほどお話したようにマーケットの変化を感じるようになったときに、ドアラには強烈な可能性があると思うようになったのです。「本にしたら、みんなビックリするだろうな」とは思っていましたが、みんな本当にビックリしすぎでした。
他のメディアで生産・消費されたテーマをまた本にするのも、いわゆる“マーケティング”的には成功だと思います。それもひとつの手段ですし、ふだん、僕も意識はします。ただ、この5,6年で時代が大きく動いて、ニッチがニッチではない「ニッチマス」の時代が来ているのではないかと感じているのです。こうなると既存のマーケティング観は通用しなくなってしまいます。だから、ある意味、その考察と検証としての「ドアラ企画」がありました。
特に書籍という媒体は、出版業界を見渡せば売れるものは400万部、小部数のものは百部単位から生産されています。だからこそ、さまざまなテーマに即した形があって、ニッチに見えるものでも、間違いなく存在意義があります。さらに、この本が大きく売れれば、そのテーマだってマス化させられる可能性もあると思うんです。
それこそが書籍の、また書籍編集の持つ醍醐味ですよね。情報の一歩先というか“ななめ上”を書籍で表現していくと、読者も喜んでくれますし。楽しい仕事ですよ。
その先の行動を促すようなきっかけを
ーー座右の名はありますか?
私は「The Who」というバンドが大好きなんですが、そのギタリストである、ピート・タウンゼントの言葉です。
「ロックは悩みを解決するものではない。悩んだまま踊らせるものだ」
これは本にも同じことが言えると思うんですよ。必ずしも本に答えが書いてあるわけではないかもしれない。それでも、楽しかったり、うれしかったり、感動したり。泣いたり、笑ったり。そこにある衝動が、読み手の前向きな気持ちを喚起してくれる。その気持ちが行動につながると思うんですよ。何かが変わっていく。自分が変わる。
私がドアラに乗せた願いは、その地方・地域に根付いている文化の強さを、「実はドアラはすごいぞ」ということを、東京発のメディアを通じて、その地方の人たちに気づいてほしいというものでした。これは後付でなく、本当にそう思っていたんです。
先日、久しぶりに名古屋に行ったら、セントレア空港の入口にドアラがのぞいていて、JR名古屋駅のホームの売店にはドアラのお土産がいっぱいならび、駅前のデパートではドアラの姿をたくさん見かけるようになっていました。3年前まで考えられませんでした。町が変わったなと感じました。それはもちろん、すべてが『ドアラのひみつ』だけのおかげではないと思いますし、そんな自信もなかったのですが、他メーカーさんから、「あの本を見てウチもやりました」と言われるたびに、少しは良い仕事ができたのかなと思えるようになりました。
もしかしたら、書籍の編集は自分の構想を形にしやすいし、成果もわかりやすく目に見えるので、自分の名前で仕事がしたい人にとってはちょうどいい仕事かもしれませんね。もちろん外部の方にはすごくお世話になっています。印刷・製本の現場から、物流、営業、販売と、読者さんのお手元に本が届くまでにはたくさんの人が関わっているんです。
しかし、そのスタート地点での制作責任者は編集者です。その肩書きが編集長であろうと平社員であろうと、その書籍担当者はおおむね一人なんですよね。だからその本に対して、いっしょうけんめいやろうという愛着は誰よりわきやすいと思います。実は僕、こうやって取材を受けたり、表に出るのは恥ずかしくて得意ではないんですが、本の宣伝になればいいという一心でいつもやっているんです。というわりに、しゃべりすぎだったりしますが(笑)。










[...] (続く) [...]