
新感覚・ビジネス小説『会計天国』
ーー太田さんの担当書でオススメの書籍はなんですか?
先ほどもお話いたしましたが、『会計天国』です。今年(2009年)4月の末に発刊して、おかげ様でなんと早々と八万部を突破いたしました。これからもまだまだ伸びそうな、手応えはありますね。
いわゆる“ビジネス書”ではありますが、すごく読みやすいんですよ。流れるように読めるところが、この本の特徴です。読んだぞ!という読了感を手軽に味わえる上に、会計や決算書にまつわる知識も身に付く機能性もありますし、しかも、笑いあり泣きあり。全300ページ以上ありますが、300ページの感覚なしで読み終えてしまえますから。
ーービジネス書じゃないジャンルに置かれていても全然違和感がないような装丁ですよね。
今回の本はあえてそうしましたね。このイラストレーターさんはふだんイメージの違うお仕事を多くやられていて、なかなかこちらからお仕事をお願いすることがなかったんですが、今回の本ではチャレンジしたいということもあり、お願いしたことがこの装丁につながっています。ビジネス書というものはもとより“いかにもビジネス書らしいもの”が多いと思いますし、それがある種の安心感や信頼につながって売れるとも思うんです。
ただ、最近、それが少しずつお客さんに通じなくなってきているような気がしています。売れるからって、それにかまけていると可能性が広がらなくなると考えた部分もあります。そういう意味で、この『会計天国』では勝負したつもりです。今までとはちょっと違うものに、表紙をもっと違う印象に演出していかなきゃいけないんじゃないかって思ったんです。ビジネス書風に見えないけれどもビジネス書であると。そもそもジャンルなんてものは作り手が勝手に決めることではなく、お客さんが判断して決めるのではないかと思うんです。
もう一冊あります。昨年(2008年)末に出たものなんですが『薄氷の踏み方』。武術研究者の甲野善紀先生と精神科医の名越康文先生による共著です。この本を読んでいただければマニュアルが無くても、きっと自分の人生を力強く生きていけると思います。甲野先生とは入社当時からお世話になっていて私が編集者としてやっていく上で、様々なことを教わりました。そういう学びを読者の皆さんにもお伝えできれば、という思いで制作しました。ちなみに制作には3年かかりました(笑)。
ーーどんな人に読んでもらいたいですか?
この2冊とも、30歳前後ぐらいの世代の方に読んでもらいたいですね。ここまで頑張ってきたんだけれども、いきなり景気が悪くなって目標を見失っている人が多いと思うんです。ちょっと前までのテンションが高い世の中の雰囲気の中で、たとえば転職してステップアップして、頑張っていこうと思ったけれども、なかなかうまくいかない。会社の中でもプレッシャーが強い。起業するにも景気が悪い。そういう逆風の中で足が止まりそうな方々に、読んで一服の清涼剤にしていただければいいかなと思います。しかも学べる側面が強い内容ですから、その時間ももちろん自分につながります。そこから新しい行動への勇気を得てもらえると、編集担当としてはうれしい限りです。「明日死んでしまうとすれば、今、何をすべきか」なんてことを考えさせてくれる本です。
ーー何か愛用されているグッズなどはありますか?
携帯電話はハードに使いますね。携帯サイトで情報のチェック。カメラで取材の現場の状況や、ネタにつかえそうなものはどんどん撮影。出張などの移動ではアプリが大活躍。かなりこき使っています。きれいな海に潜って、水深2メートルくらいのところで海の中を撮影したこともあります(笑)。その写真は、本の中の飾り画像として使いました。おかげで最近、ちょっと調子が悪いです(笑)。

手のひらサイズ収まるノート。情報を選んで、ストックするツールです。
あとはこういうノートを常に携帯しています。ただ思ったこと、覚えておきたいこと、感じたことを書いたり貼ったりするだけのためのノートです。これを自分で日記がわりにして、後でふりかえってみると、頭がまた一新されていって、新しいアイデアにつながったりします。こんなことあったんだとか、こんなお店あったなぁとか、こんな面白い人がいたなとかをストックしておくノートなんです。だから他人にはとても中身は見せられません。恥ずかしいですから。ポエム的に心象風景が書いてあるかもしれないですし(笑)。とにかく、これを読み返して、自分の頭の中を整理している感じですね。
今の世の中には情報が多過ぎますからね。その中で、このノートは必要な情報を選んで、ストックして、選ぶためのツールなんです。ノートを選ぶ基準は罫線つきのシンプルなもの。サイズはちょうど僕の片手におさまるぐらいがいいですね。僕の手は外国人にも驚かれるほど大きいのですが、この自分の手になんとなくしっくりきて、開いてそれなりに書くスペースがあるものがベストです。中は見せませんよ(笑)。
その時その時に最高のものを
ーー今度のご予定は?
明治大学のマスコミ就職講座というところで、去年からお手伝いさせていただいています。今年は正式に講師として学生さんを指導することになっています。そもそも僕なんかが指導していいのかという感じはありますが、自分の経験が、何か学生のみなさんのヒントになればいいな、と思っています。ちなみに結婚の予定はありません(笑)。今後も粛々と編集者としてやっていければ幸いです。
ーー太田さんにとって編集者とはなんでしょうか?
うーん、難しい質問ですねー。編集者は旅芸人? なぜかと言えば、先日ドラクエⅨを買ったからです(笑)。僕の使っている主人公がブーメランパンツで……冗談はさておき、編集者ってなんでしょうね? そうですね。「バックギアの無い車のドライバー」とでも言えばいいんでしょうか。出来上がった本は、もう作りなおせません。世に出た本は、形を変えることができません。前に進んだら戻ることはできないのです。常に一発勝負。読者の判断ですべてが決まります。
だから、絶対に企画も制作も間違えてはいけないんです。最高に読者に喜んでもらえ、かつ著者の価値を最高に高める企画は何か、また、この車を円滑に進めるための最高の仕事の進め方は何か、私は常々考え抜いて仕事をしているつもりです。少なくともそういう覚悟で仕事に臨んでいます。「ハンドルを切って回転すれば後ろに戻れるじゃないか」という方がいらっしゃっても、この部分はインタビューのクライマックスだと思うので、温かく、やさしく見守ってください(笑)。
ーーありがとうございました。









[...] (続く) [...]