
情報収集の営業時代
ーー営業に配属されたときはどうでしたか?
書店さんでも自社の商品だけじゃなくて、他社のものを見たり、「どんなものが売れていますか?」と聞いて回ったりと、情報収集に精を出していました。数字を伸ばすのはもちろんですが、後の編集に生かそうという気持ちも持ちながら、営業をしていました。
ーー営業をやっていてよかったことはありますか?
編集者となった今、営業をやってよかったなと思うのは、営業さんの気持ちがわかる、ということです。編集の仕事をしていると、本来そうあるべきではないんですが、ときには著者に遠慮をして妥協する場面とか、会社の事情によってしょうがないからその企画やろう、というような場面にも遭遇します。
そういうときに営業時代を思い出すんです。そんなふうに制作側が妥協したり思い入れもなく作ったものを売らされるっていうのは営業にとって嫌なものです。最初は不本意の営業でしたが、多方面から本作りについて考えれるようになったことは、編集者としてプラスになったと思います。
本ができてからのことも想像する
ーー「営業からみた本作り」とはどんなことですか?
本ができてからどのように読者の手に渡るかを想像しながら作る、ということです。書店さんでどのように展開されるか。例えばどんなコーナに置かれて、どんな風に並べられるのか、というところまで想像します。
最初に企画した『今日からできる上手な話し方』という本も、「話し方」は「鉄板」のテーマで、外さないと思いました。それに、話し方に悩んでいる人はたくさんいて、書店さんで手にとって読んでくれる姿も想像できたのです。もし営業をやっていなかったら、こういう見解は持てなかったかもしれません。
また、ただ単にオシャレな装丁にすればいい、ということではなくて、「競合商品と並べてどうか?」「書店さんに置かれたときにどうか?」というところまで考えてカバーづくりもできていると思っています。
ーーやはり営業さんが一番書店さんに近い立場なんですね。
営業は、できた本を適切に市場に送るという大切な役割を担っています。大切な仕事ですし、大変な仕事です。
長野に営業に行っていたときのことです。電車で飯田の方に行くのには、すごく時間かかるんです。何時間も鈍行の普通列車に乗って行く。それから書店さんに話を聞いてもらって、また何時間もかけて帰る、ということもあったんです。
台風が来ていて、駅から傘もさせないほどの荒天候のときもありました。都内の書店も大変でした。店内が忙しいときにお話聞いてくださいって頼むのって簡単じゃないですし。タイミングを読み違えて怒られることもしょっちゅうありました。そうやって、苦労して書店さんを回る営業の方の立場も頭の片隅に入れながら編集の仕事をしようと思っています。
ロマンと算盤
ーーなぜ中経出版に転職されたのですか?
中経出版は、ビジネス書が中心の版元であるのに『オタリーマン』を出したり、恋愛本を出したりと、歴史があるのに新しいことをやる出版社だなと思っていました。ブックデザインも、時代の変遷とともに進化していますし、やったことのないテーマの本であっても責任をもって売れる本にするなら、「よくわからないけど、まずやってみなよ」という社風です。「まず、やってみよう」は編集長の口癖なんですけど、新しいことに常にすごく前向きです。もちろんそれは売り上げを重視しての上ですが、うまくそこのバランスが取れている会社だと思います。
ーーポジティブな会社ですね。
そうですね。あと、弊社の理念に「『ロマンと算盤』のバランスを大事にする」というのがあります。世間では「感情と勘定」という言い方もします。最初、「ロマンと算盤」を聞いたとき、ふるくさい言葉だなと思ったんですが、今では編集をやる上での座右の銘となっています。「デザインを奇抜で面白いものにする」「新しいテーマにチャレンジする」などのロマンも大事だけど、ちゃんと原価率を考えて、「初版がこれくらいだから、この紙はちょっと使えないね」など算盤も弾いて、バランスをうまく取ろうということです。
算盤だけで考えたら『オタリーマン』は生まれなかったと思います。だからロマンは大切。でもロマンだけを追って、お金を制限なく使い、いい紙をバンバン使ってしまったら、いずれ会社にお金がなくなり、次のロマンを追えなくなってしまう–。「ロマンと算盤」を常に肝に銘じて、コスト感覚を持ってマネジメントすることも編集者の役目かなと思っています。









[...] 版とは紙とインクを除いたら全部「人」です。だから、ゲラに赤字を入れることも編集者にとって大切な仕事ですが、人に会いに行くことが一番大事な仕事かなと思います。」(最終回) [...]
[...] (続く) [...]