
スランプのときの対処法
ーー編集者として身に付けておいたほうがいいスキルはありますか?
すぐ思いつくものでは企画力、コミュニケーション力、マーケティング力……、など色々ありますが、あえて、これまで「編集者.jp」に出ていた方が話されていないことを話しましょうか。それは、スランプの時にどうするかということです。これは、編集者として長く活躍したいと思っている人には、とても大事なことだと思います。自分のことを棚に上げて言いますが、どんなベテラン編集者でも毎回、自分が想定していた読者にきっちり本を届けられているわけではないと思うんです。平たい話、思った以上に売れない本を作ってしまうときもある。経験が浅い編集者であればあるほど、売れない本が続き出すと、その波から簡単に抜けられないのかもしれません。
僕自身、何度もスランプを経験した結果、大事だなと思ったのは、そのときに焦ってはいけないということ。スランプの渦中にいると、例えば、仕事のスタイルをがらりと変えるとか、普段作らないジャンルの本をあえて作ってみるとか、手当たり次第に人にアドバイスを乞うとか、焦って色々なことをしがちだと思うんです。そうやってもがくのが全くだめというわけではないでしょうが、そんなときこそ基本に戻って淡々と仕事をやったほうがいいのかなっていう気がします。
あくまで僕の経験上ですが、焦っている時の選択って、そんなにいい選択じゃないことが多いんですよ。そういうときこそ基本に戻って、自分の仕事の流儀を確認しながら淡々と仕事をする。その中で、自分に生じてた「ズレ」、本作りで言えば、読者との「ズレ」が浮かび上がってくるのではないでしょうか。今言ったようなことは、実は市川さんが編集された『勝負に強い人がやっていること』に書かれています。影響を受けた一冊ですね。
企画は「悩み」から生まれる
ーー企画はどうやって立てていますか?
僕が企画を立てるときの根底には「ビジネス書は、読者の仕事や人生の悩みを解決する薬みたいなものだ」という考え方があります。例えば、最近編集した『頭のいい人脈の作り方』でいえば、自分には頼れる友達がいないとか、ビジネスにおいて助け合えるようなパートナーがいないとか、まず「人」に関する悩みがあって、その悩みを解決する薬としてこの本が求められている現状があるんじゃないかと。
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だから、企画を出すためには、編集者自身が悩みをとことん「棚卸」するところから始めるといいと思うんです。普段、まじめに仕事していれば、もっと言えば、まじめに生活していれば、悩みの十や二十は出てくるはず。それらの悩みを流さずに記録しておけば、少なくとも企画のタネは自然とたまっていくでしょう。
一年半近く前に担当した『頭のいい段取りの技術』という本があります。この本、企画の立案自体はさらに一年半前にさかのぼるんですが、今振り返ると、三年前の自分が一番読みたかった本なんです。その頃よく残業していて、自分では頑張って仕事をしているつもりだったんだけど、要領が悪いのかいつも時間がかかってしまう。なんでだろう、どうやって解決すればいいんだろうという悩みを前にして、そうか、その解決策を著者の方に書いてもらえばいいんだというところから生まれた企画です。
ーー自分の悩みをもとにするだけでは、企画は尽きてしまったりしませんか?
確かに自分の悩みだけだと狭いですよね。それは僕も自覚しています。だから、他人の悩みを知る・想像することも大事だと思うんですよ。僕は、こういうことでは普段悩まないんだけど、他の人は何で悩んでいるんだろうって。
この『子連れ離婚を考えたときに読む本』も、僕自身の悩みを追いかけるだけでは絶対に出てこない企画です。著者の方の持ち込みから実現した一冊なんですが、タイトルを決める会議で男性の上司から散々疑問が出たんですよね。「これって別に離婚でいいんじゃない? なんで子連れなの?だって離婚のほうが幅広いじゃない」。それでも、僕と著者は「子連れ」にこだわったんですよ。なぜなら、それこそが離婚される方、とくに母親の一番の「悩み」だからです。
子供の親権はどうするのか? 養育費は? 離れて暮らす親と子供はどれくらいのペースで会えるのか? そういうことって、未婚の僕にとっては、確かに他人の悩みです。けれど、その企画の著者の方も、ライターの方も、当事者としてその「悩み」を抱えていた時期があった。何より、僕の母親も、僕が若い頃に離婚しているんですよね。そういう人たちが身近にいたからこそ、「他人の悩み」を「自分の悩み」として、とらえ直すことができた。企画を出し続ける上では、自分の内からくる悩みと、他の人と交わることで知る悩み、両方を追い続けることが欠かせません。
ーー他人の悩みはどこで知るのですか?
当たり前ですが、とにかく人と会うことです。それに関しては本当に意識して行っています。自分から勉強会やセミナーなどに参加することもありますし、飲み会一つとっても、先約がある場合はまだしも、「ただ、忙しいから」という理由で断ることは極力しないようにしています。
居酒屋から生まれた一冊
ーー飲み会に行くことも仕事の一部ですか?
そうですね。仕事の役に立っているという意味では、立派な仕事と言えると思います。飲み会に行くとき、一つ気をつけているのが、遠い人との約束を優先するということです。例えば、社内の飲み会と、社外の人との飲み会の日程が重なったら、僕は必ず社外のほうを優先させます。場合によっては、社内の飲み会に1時間だけ顔出したあとに、他に行くとか。やっぱり、普段しゃべったことがない人としゃべると、自分では考えないような悩みを聞いたりして、もしかしたら同じような悩みがある人は多いのかもしれないと気づくこともあります。この人たちの悩みを解決するにはどのような本を作ればいいのかなというところから、企画につながっていくんですよ。
ーーでは結構盛んに外に出られる感じなんですね。
出てますね。極端な話、飲み会から優先してスケジュールを決めて、無理にでも外に出る時間を作っています。編集者という職業柄、そうでもしないと仕事に追われっぱなしになる危険もありますし。ただ、そうした時間を捻出するために、社内で集中して作業する時間を確保するようにもしています。
昔は本の影響で、こま切れの時間をいかに生かすか、といったことも考えていたんですよ。例えば、15分電車で移動するなら、その間に少しでも原稿を読もうとか。でも、これはあまりうまくいかなかったですね。もちろん、それでできる作業もあるとは思います。例えば、誰かに手紙を書くとか、メールを送るとか、その時間内で完結するものはいいでしょう。けれど、原稿を読むといった、ある程度の集中力や時間を要する仕事は、こま切れ時間を活用しても、一回一回、流れが切れてしまうので良くないなと思ったんです。だから、今では集中力が必要な仕事は、会社にこもって一気にやってしまいます。そのほうが結果として先に早く終わるんですよね。
ーー著者の方ともよく飲まれるんですか?
そうですね。本が完成したときの打ち上げはもちろん、時間の許す限り、打合せのあとにもよく飲みます。中には「居酒屋から生まれた本」もあるんですよ。この『てっぺん!の朝礼』は 居酒屋の社長さんが著者なのですが、彼のお店でやっている朝礼がすごく面白いんだよと知り合いの飲食店のコンサルタントの方から教えてもらったんです。朝礼といっても、居酒屋なので夕方から始めるんですが、お店のメンバーが例えば「ありがとう」をテーマに思い思いにスピーチをしたり、自分はどんな分野で日本一になりたいかを大声で宣言したり、とにかくパワフルな朝礼なんですよ。最初は見学だけのつもりだったんですが、朝礼のあとに社長さんとビール片手に語り合って、「この朝礼を本にしたいな」って思ったんですよね。
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ちなみに、その日は自分自身も朝礼に参加したんですが、いきなり「滝さんの夢は何ですか」って聞かれまして。気づいたら、「大嶋社長の本を作って、売ることです!」って叫んでました。その時点では、まだ企画も何も決まっていなかったんですがね(笑)。何がきっかけで企画が生まれるかなんて、本当にわからないものです。
出会いに効率を持ち込まない
ーーそのような貴重な出会いを逃がさないコツはありますか?
コツといえるかどうかわかりませんが、1回1回の出会いを大切にするよう心がけています。ただ、口でいうのは簡単でも、それって案外難しいんですよね。今、盛んに「効率化」ということがいわれていますが、忙しさに追われていると、その考え方を「出会い」にまで持ち込みかねません。例えば、セミナーやパーティーである人と名刺を交換したとき、肩書きや仕事の内容だけ見てこの人は仕事には関係なさそうだなと、すぐ判断してしまう。また、これは知人の編集者の例ですが、著者の候補にならなそうな人には、名刺が切れたと嘘をついて、名刺を渡さないなんてことも。でも実際には誰と今後仕事をするかなんて、出合った時点で判断できないと思うんです。特に僕ら編集者の場合、本当に色々な方と仕事をする可能性がある。だから、口でいうほど簡単ではありませんが、1回1回の出会いを、大切にしようと思っています。
それもあって、基本的に名刺はいつも100枚以上持っています。セミナーやパーティーに行くときも必ず切らさないようにして、いつも以上の量の名刺をバックの中に常に入れています。この人は自分の仕事には全然関係なさそうだから名刺を差し上げないなんてことは考えず、少しでも「つながり」を残すようにしています。たとえ、その方と直接仕事をしなくても、いつ面白い人を紹介してくれるかわかりませんしね。会社員の特権ですが、お渡しするのはタダですから(笑)。











[...] (続く) [...]