
時代に合わせて本の中身を再解釈する
ーーでは、売れる本を作るには、徹底して中身にこだわれ、ということでしょうか?
理想論に聞こえるかもしれませんが、やはりそれが第一だと思いますね。繰り返しになりますが、ビジネス書を「仕事や人生の薬」と考えるなら、その中身、薬効にはこだわりたいです。この本を買ったら、今の悩みが少しでも快方に向かうんじゃないかと思わせるには、もちろん外側、パッケージデザインの力もあるでしょう。でも、それ以前にパラパラ読んだときに、そのときの自分に「効く」と思ってもらえるかが大事じゃないでしょうか。
逆に、そんな本が多いとは思いませんが、中身が伴わないでパッケージの力だけで売れた本があったら、作った編集者も辛いでしょうし、なにより読者が嫌になると思うんですよね。それは、長い目で見ると、誰も幸せにしていない。せっかくお金を出して薬を買ったのに、実はただの水だった。そんな本作りが横行すると、出版業界は今よりもっと悪くなるでしょう。ちょっと話が広がりすぎましたが、ともかく、僕はまっとうな本を作りたいと思っています。
ーー他にも、売れる本に必要な条件はありますか?
もちろん、他にもたくさんの要素があると思います。中身の話ばかりしてきましたが、タイトル、カバーのデザイン、コピーを軽視しているわけではありません。あとは、当然タイミングも関係してきますよね。この本が、なぜ今出版されなければいけないのか。ただ、恥ずかしながら、僕はそれほど時代の流れを読むのがうまい編集者ではないんです。またダイヤモンド社の寺田さんのように著者の方にとって初めての本を担当することも多いので、出版を希望していたタイミングより大幅に遅れて原稿をいただくケースもあります。
例えば、『頭のいい人脈の作り方』は企画が通ってから完全な原稿をいただくまで、実に一年半以上かかったんですね。その間に一番変わったことといえば、経済状況の悪化でしょう。「100年に一度の危機」という言い方が適当かはひとまずおくとして、そういう暗く殺伐としたムードの中で、「人脈」というテーマは若干「のんびり」しているかな、という危惧がありました。けれど、その状況を逆手にとって、「こんな先行き不透明な時代だからこそ、本当に頼れるものは人なんだ」というメッセージを強く打ち出したらいいんじゃないかなと思って。まえがきにもそういう一文を追加してもらいました。それがどれだけ読者の方に受け入れられたかわかりませんが、結果的には早い段階で増刷することができたんです。
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先ほどもいいましたが、僕はタイミング、時代の流れをうまく読める人間ではありません。けれど、編集者と著者の方が協力し合えば、たとえ企画したときと世の中の状況が変わっても、それにふさわしい形で出版することもできると思うんです。時代に合わせて企画の解釈をし直す、というのも、変化のスピードが早い現代では必要な考え方かもしれません。
「本気」の大切さを教えてくれた『てっぺん!の朝礼』
ーー数々の本を作って来た中で、思い出に残る一冊はありますか?
やっぱり『てっぺん!の朝礼』ですね。この本は、著者の大嶋さんに私とライターさんが取材をして、それを聞き書きの形でまとめたのですが、一年間ずっと彼を追い続けたんですよ。周辺取材も含め、20回くらい取材をしたんじゃないかな。すごい人だなって思ったのは、いい意味で会う度にいうことが変わっていくんです。著者の方が取材を重ねるたびに、成長、進化していく。そんな事情もあって、ビジネス書としては異例の長期取材になりました。
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この本を編集しているときは、まさに中身、原稿の力を感じましたね。著者の大嶋さんとライターさんと私が一年間話をする中で、どうしたら、「てっぺん」というお店の朝礼のすごさを読者に伝えられるのか、朝礼をすることで読者はどのように変われるのか、考えて、考えて、考え抜いてできあがった原稿です。よくないわけがない。実際、僕が担当した中で一番売れている本なんです。それで、やっぱり中身だなって、自分の考えに自信がもてましたね。誤解を招く言い方かもしれませんが、この本って必ずしも時代の追い風を受けているわけではないと思うんですよね。『てっぺん!の朝礼』に込められた熱さって、下手をすれば今の時代と逆行しているくらいかもしれない。けれど、それでも発売後2年経った今でもまだ多くの読者の方にご支持をいただいているのは、その中身を評価してもらっているからだと思うんです。
ーータイトルやカバーのコピーをつけるとき、悩まれましたか?
いえ、タイトルもコピーもまったく悩まなかったです。本当にすらすら出てきたんですよね。それは一年間ずっと、この本のことが頭にあったので、当然だと思います。
もし、本のタイトルやコピーのつけ方に悩んでいるという若い編集者の方がいたら、その本のことを、ずっと頭の片隅に置いとくといいと思います。ふとしたときに、あの本のタイトルどうしよう、コピーはどんなテイストでつけようか、と思い出す。その「気にかけた時間の長さ」があとでボディーブローのように効いてきたりするんです。もちろん、すべての本が『てっぺん!の朝礼』のように長い時間をかけて作れるわけではありませんが、企画を立てたときから、断続的に本について考え、その時々に浮かんだ言葉をメモしておくだけでも、正式にタイトルを決めたり、カバーを依頼したりするときに、きっと役に立つはずです。
ーーこの本を作られることで、ご自身の考え方は変わりましたか。
色々な影響を受けているとは思うのですが、中でも、著者の方との付き合い方がすごく変わりましたね。誤解を招く言い方かもしれませんが、著者の大嶋さんとは「本気」でないと付き合い切れないんですよ。取材期間を含めて一年以上、本にたいする思いをお互いぶつけ合っていくには、つねに本気で付き合わないといけない。本気で付き合うからには、ときには伝えにくいことも口にするし、そのぶつかり合いを避けて無傷でいることはできないんです。
僕自身がまだ30歳ということもあって、一緒に仕事をさせていただく著者はほとんどが年上、しかも経験豊富な経営者の方が多いので、そんな方々に自分の思いを伝えるのが怖いこともあります。けれど、それでいうべきことがいえないとしたら、本づくりにも影響が出るかもしれない。著者の方に本気でいいたいことをいい、それでもしこりが残らない関係を築くにはどうしたらいいのか、大嶋さんとの長い付き合いの中で、身をもって学んだ気がします。そうして本気でぶつかっていくと、やっぱりいい仕事ができるんです。









[...] (続く) [...]