

ディスカヴァー・トゥエンティワン
千葉正幸さん
第11回目にご紹介するのは
ディスカヴァー・トゥエンティワンの
千葉正幸さんです。
『現代オタク用語の基礎知識』や『「仕組み」仕事術』などのヒット作を担当されています。
ほんわかな雰囲気の中にある千葉さんの哲学を語っていただきました。
未知の領域だったビジネス書の面白さに気づく
ーー編集者になられて何年目ですか?
大学を出て新卒で日本実業出版社に入社して、4年9ヵ月在籍しました。それからディスカヴァーに移って、現在8年目です。書籍編集者としてのキャリアは13年目になります。
ーー大学時代の就職活動では、出版社を中心に受けられたんですか?
はい。ただ、自分は文学部だったのですが、文学部の男子学生が受けられる企業は(今の事情は知りませんが、少なくとも当時は)限られていたんです。そのうえ浪人と留年を一回ずつ経験していて、もうこれ以上親に迷惑をかけられない。どこでもいいから就職しなくちゃ、というのがありました。
そういう状況だったので、出版を中心にマスコミを志望しながら、一方で、文学部男子でも受験資格のあるところは片っぱしからエントリーしました。とにかく、拾ってくれるところだったらどこでも入ってやろうと思っていました。
そうして、あるカード会社から早い時期に内々定をもらいました。その時代には内定解禁日というのがあって、それは当時7月1日だったんですけど、その日に会社に行くと正式な内定がもらえるわけです。逆に言えば、その日の内定式に参加しないと内定取り消し。そして、その7月1日に、複数の大手出版社の説明会や面接が重なって……とても迷ったんですが、結局カード会社の内定をお断りして、出版社の試験を受けに行っちゃったんです。
あれが正解だったのか、間違いの始まりだったのか(笑)今でもよくわかりませんけど、でも、そこで腹を決めました。「拾ってくれるならどこでもいい」じゃなくて「そのとき、自分がいいと思う道を選んでいこう」と。まあ、そうでも思わないと、内定ゼロに自ら戻るという事態を受けとめられなかったわけですが。
で、それ以降もメディア関係の会社を中心に就職活動を続けて、いくつか内定をいただいたなかで日本実業出版社に入社した、というのが経緯ですね。
ーーメディア関係を中心に志望されたということは、世の中に何かを発信したいという思いがあったからですか?
発信したい……うーん、それほどの強い欲求があったわけじゃないんです。それよりは、関わっていたいという感じですかね。
学生時代、ポップスのバンドでベースを弾いていたんですが、そのときも、オリジナルの曲を書いて世に出したいとか、練習に練習を重ねたギターソロを皆に見せつけたいとか、そういった発信志向は、自分には特になかったんです。それよりも……ドラムは16ビートが得意なAさんに頼んで、ギターはブルース好きなB君に任せて、ボーカルは華のあるCさんにお願いして、そのメンバーで、この曲をアレンジして演奏したらきっと面白いはず!……みたいな感じで、バンドを組み立てていくのが得意だったんです。プレイヤーよりも、プロデューサー志向だったんですね。
それって今の仕事にも通じていて、文章を書きたいとか、著者になりたいわけじゃないんですよ。それより、「この著者に、こういうテーマで書いてもらって、こういう装丁で書店に並べて、お客さんに手にとってもらいたい」って考えはじめると、アイディアがいろいろ思い浮かんでくる。
きっとメディアの仕事に関わって、そういうことがしたかったんだと思います。
ーーなるほど。そして最初の会社に入ってみてどうでしたか?
大学の文学部を出て、それまでは無縁だったビジネス書という分野の編集に携わったわけですが、これが、とても面白かったんです。Aという分野ではこういう著者が人気を集めていて、Bという分野では○○社や××出版社が幅をきかせていて、Cという分野はニッチだけどロングセラーが多くて……といった具合に、ビジネス書の世界の中にも、いろんな状況やトレンドがあるじゃないですか。自分にはまったく未知の領域で、それが逆に新鮮でした。
たとえば東京だって、電車しか乗らないと電車の路線図しか頭に浮かんでこないけど、自動車の免許をとって都内を運転するようになると、ああ、ここに環七があって、環八があって、第三京浜があって、用賀にはマックのドライブスルーがあって……みたいに、新しい地図が、それまで見えてこなかったレイヤーで見えてきますよね。それと同じような感じです。
当時は、今と比べると時間もあったので、毎日のように会社の近所の書店に通っては、ビジネス書の棚を眺めていました。凝り性というか、マニアックというか。
ーーそこから転職されたきっかけは何だったんですか?
えーと、ビジネス書から離れたかったんですね。
ーーえ? 千葉さん、今でもビジネス書を編集されてますよね??
(笑)正確に言うと、もっといろいろな本づくりをしてみたかったんです。
当時の日本実業出版社は、フォーマットの決まったシリーズものの入門書が中心でした。図解シリーズとか、業界シリーズとか。
フォーマットの決まった本の編集って、原稿内容に意識を集中できるから効率的だし、新人には良い勉強になるんですが、何年もやっているとだんだんマンネリになってきちゃうんですね。そのうちに「もっと単品で、著者の個性を出して、装丁もオリジナリティのある本をつくりたい」と思うようになりました。
それと、ビジネス書の面白さがわかりはじめたとはいっても、所詮、社会人経験の浅い20代の文学部出身ですから、そんな自分がビジネス書編集のプロになれるのだろうかという不安もありました。ビジネス書から離れたかったというのはそういうことで、要するに、もっといろいろなジャンルで自分を試してみたいと思ったんです。
ーーそれでディスカヴァーに転職されたわけですね。
はい。その頃のディスカヴァーは、ビジネス書はまだほとんど出しておらず、女性エッセイや翻訳物の自己啓発書が中心でした。そこで最初は、CDサイズの本をつくったり、「夢をかなえる人の手帳」シリーズを立ち上げたりしながら、いろいろな本づくりを勉強させてもらいました。
でも移ってみたら、ちょうどディスカヴァーでも、コーチングの本を皮切りにビジネス書を展開していこうという時期でした。なんだかんだとビジネス書を編集する機会が増えていって、今では、担当する本の8割以上がビジネス書になってしまいました(笑)
前の会社の先輩からは、「お前、ビジネス書から離れたいと言って日本実業を辞めたのに、結局ビジネス書ばかりつくってるじゃないか」と言われます(笑)
専門性よりも、広い見識を身につける
ーー編集者として身につけた方がいいスキル、心持ちはありますか?
編集者は、ときに企画を考えるアイディアパーソンになったり、著者を励ますモティベーターになったり、会社と著者の間の調整役になったり、本の内容の正確さを追求するリサーチャーになったり、著者の代筆をこなすライターになったりします。ケースバイケースで、いろいろな役目をこなす必要があるわけです。
そこで求められる能力って、専門性よりも、全体を見ながらバランスよく臨機応変な対応ができることじゃないかと思うんです。
小社の干場(社長)が「編集者に必要なのは知識よりも見識」とよく言っているのですが、たくさんの仕事を同時進行させて、さまざまな分野の著者と付き合いながら、そのつど総合的に最適な判断をしていこうと思ったら、そこで見識が求められてくるんだと思います。ちょっと抽象的ですけど。
ーー見識を身につけるためには、どうすればいいのでしょう?
僕もまだ若い(つもり?)のであまり偉そうなことは言えませんが、ひとつには、様々な物の見方や考え方について知っておくことかなと思っています。
やっぱり人から学ぶことは多いので、僕はできるだけ外に出て、さまざまなタイプや立場の人と接するようにしています。できれば挨拶や世間話だけじゃなくて、時間をとって、その人の専門分野について教えてもらうのがいいですよね。
とはいえ、人と会うのにも物理的・時間的に限界がありますから、自分はとくに書店とネットを活用しています。
書店に関しては、とにかくたくさん書店に行って、自分の仕事の分野や、趣味のコーナーだけじゃなくて、あまり知識がないジャンルの本棚もときどき眺めるようにしています。そうすると、よくわからないなりに、この分野ではこんなことが起きているんだ、こういうトレンドがあるんだといったことが見えてきますよね。
ネットでは、ブログやソーシャルブックマークなどを定期的にチェックしています。エンジニア、コンサルタント、法律家、お医者さん、読書家など、さまざまな職業や立場の人をマークして、それぞれの方の考えや知見を学ぶようにしています。多角的に視点を広げるのに役立っています。







[...] (続く) [...]