
自分も切羽詰まらせるスケジューリング術
ーー著者の方とうまく付き合う秘訣はなんですか?
基本的には著者にとって励みになることを言うようにしています。著者の方にモチベーションを維持してもらうことも編集者の仕事で、著者のことを批判するのは難しいことです。特に書き直しをお願いするときはすごく気を使いますよ。自分の意見が正しいと断言することはできないので、「こうしたほうがよりいいのではないでしょうか」と提案する姿勢でお話しをします。
著者に提案する前に、「どう思う?」と周りの人にヒアリングをすることもあります。そして柔軟に第三者の意見を取り入れるようにしています。編集部でタイトル会議をするのは通例で、それ以外にもほかの編集部のみんなに意見を聞いて回ったりします。もちろん営業にも聞きます。編集の難しいところは、自分の読みたい本という視点だけでは、絶対に売れる本は作れないことです。だからこそ自分よがりにならないように、つねに人と自分の意見を共有するようにしています。
他社の有名な編集者の方が、座右の銘に「タイトルは自分でつけるな」というのをあげておられるのを見て、ヒットメーカーとはこういう心持ちなのか、とびっくりしたことがありました。だけどその通りなんですよ。結局書いてもらうのは著者ですし、自分が買うのではなくて、お客さんが買うのですから。実際に仕事ができる先輩ほど、うまく人の意見を取り入れて形にしていらっしゃるんですよね。そういう意味では、頭が固い人間は向かないかもしれません。できるだけ柔軟に、自分の考えていることについて、「もしかしたら面白くないかもしれない」と引き返せる力というのは必要ですよね。
そしてスケジューリングも編集という仕事のカギとなってきます。忙しい著者の方だとスケジュールが押して、責了日の数日前に原稿が届くなんてこともあるんですよ。すると編集の時間が削られてしまってドタバタと入稿・責了することになってしまうんですね。
せっかくいい原稿を上げてもらうのだから、時間をかけて丁寧に仕上げたいじゃないですか。僕も過去にスケジューリングの失敗をたくさん繰り返してきて、ようやくペースをつかめてきたところです。現在、たいへん多忙な茂木健一郎さんの4冊目の本を制作しているのですが、2週間後に責了予定の原稿が手元にあります。ずいぶんと早くなりました(笑)。
ーースケジューリングのコツはなんですか?
雑誌で真っ白なページって見たことがないじゃないですか。つまりスケジュールがどんなに遅れていても、最終的には書いていただけるのです。遅れる理由はただ一つで、切羽詰まった状況が著者に伝わっていないからでしょう。「何とかしますから」と著者に言われて、「じゃあお願いします」ではいけません。まだ余裕があるな、と見透かされてしまう。「本当にこのままだとまずいので、なんとかお願いします。どうしても間に合わせてください」と切実に伝えることが大切です。
ではその切羽詰まった感を、相手にどう伝えるのかというと、僕は根が正直でうまくウソがつけないから、自分も切羽詰まることにしています。締切を勝手に早めてしまうんです。スケジュール帳にも架空の締切しか書かない。そうするとうまくまわせます。 極論を言うと、締切をきっちり守ってそれなりの原稿をあげてくる人と、締切はギリギリだけど、すごく面白い原稿を書く人とだったら、僕は後者と仕事がしたいと思っています。忙しい方に頼むと、原稿が遅れてこっちが大変になるのはわかっているんですが、大変な部分はスケジューリングでなんとかすることができますから。僕はあくまで内容重視です。
本が好きかどうかは編集者の適性には関係ない
ーー編集者に適性があるとすればなんでしょう?
マスコミ業界ということで華やかなイメージがあるかもしれませんが、編集者の仕事は実のところ、雑務や手作業がとても多いんです。そこをおざなりにしてしまったら、いい本は作れません。だから仕事を丁寧に着実にしっかりとこなしてくださる方が一番ですね。特に新人のうちは背伸びせずに、任された仕事をしっかりこなせることに重点をおけばいいのではないでしょうか。
編集者になりたいという人は、本が好きな人が多いと思います。ですが、これは売れる本をつくるといった観点からの話なのですが、本好きということはもしかしたら、それほど編集者の適性とは関係がないかもしれません。本が好きな人は、自分が読みたい本を作りたいという願望を持つと思うんですが、本が好きな人が買う本と、そうでない人が買う本というのはちょっと違うんですよ。あるいは、ベストセラーばかり読んでいる人が、ベストセラーを作れるのかというと、そうではないと思います。「本が大好きなんです」という情熱を持った人よりも、冷静な視点を持てる人のほうが、売れる本を作れるのかなと思います。
ーー冷静な視点とはどういうことでしょうか?
人の意見をうまく取り入れることです。会社勤めをしている以上、売れる本を作らなければいけないというプレッシャーが強くなります。ですから、本が好きな人は悩むんですよ。本が大好きで作りたい本がある。でも自分の作りたい本には売上が伴わない、と悩んでしまう人はちょっと大変かもしれません。現在は、どこの出版社さんでも、書店さんの毎日の売り上げデータを入手しています。どの本が売れた、どの本が売れないというのが一目瞭然なわけです。
ーーシビアですね。
そうです。本当にシビアなんですよ。コンビニのPOSシステムのように、購入者の性別から年齢層まであらゆるデータが出てくる。データベースという点でいえばとても有用なツールですから、それを参考にして企画を立てたり、著者を選択する判断材料にしたりと、仕事に上手く活かしています。
ーーデータをもとに企画を立てる面白さとはなんでしょうか?
読者というのは不特定多数の人たちです。データで読者像が完全に描けるわけではないのです。必ず読者がいるところに本を出すのではなくて、データをもとに「ここにはもしかしたら読者がいるのかな」と推測しながら、新しい本を世の中に提案していく。新しいことに挑戦すると失敗するケースが多いのですが、受け入れられるかどうかは、結局やってみないとわからないですからね。毎回様子をうかがいながら、「売れそうかな?」という感覚を頼りに仕掛けることが醍醐味ですね。そして世の中の動きを多少なりとも反映させて、あわよくば新しい動きに結びつくようなものが出せると楽しいですよね。







[...] (続く) [...]