三笠書房 清水篤史さん_その3
{ Tags: 三笠書房, 書籍編集者 \ 1 月18 }1つでも多くの意見を出す
――本作りをする上で意識していることはなんですか?
「1つでも多くの意見を出すこと」でしょうか。僕がまだ30歳くらいのときの話ですが、ベテランの校正者の方に「校正者の能力はどこでわかると思うか?」という問いかけをされたことがあります。
その答えは「校正者の能力は赤字の量に正比例する」。「同じ原稿を読んでも、優秀な校正者が読めば赤字は多いし、そうでない校正者が読めば赤字は少ない」とおっしゃっていました。そこであまのじゃくな僕は「でも、出来のいい原稿だったら、校正者の優劣に関係なく、赤字の量は少ないんじゃないんですか?」と聞いたんです。すると「優秀な校正者は赤字を見つけ出すんだよ」と言われました。
そして次に「優秀な編集者はどこでわかるのか?」と問いかけられたのです。すると、答えはずばり「編集者の能力は意見の量に正比例する」。「なるほどな」と思いました。企画に対する意見、タイトルに対する意見、著者に対する意見、装丁に関する意見などなど、意見の数が多いということは、それだけ「考えている」ということですからね。当然、「引き出しの数」も増えるし、「理想的な答」にも近づく。ですからそれ以来、一つでも多くの改善点を見つけて、まず自分自身に意見を言うようにしてきました。
僕は、編集者の意見は「本づくりの起点」だと思います。ただ、その起点がどちらの方向に行くかを決めるのは編集者だけではない。理想的な本づくりをするには、著者、上司、同僚、デザイナーなどなど、複数の人たちの意見を通過させるべきですよね。その中でも、担当編集者が一番最初にテーゼ、こだわりと言ってもいいでしょう。意見を出すべきですよね。それに対して「いいね」と言われるときもあれば、時には「それよりも、こうなんじゃないか」というアンチテーゼが返ってくることもある。それを揉んでいくと、より「理想的な答え」、つまり、ジンテーゼに昇華されるわけです。
朝令暮改できるスキル
――編集者に向いている性格は? また編集者が持っておくべきスキルなどありますか?
編集者に向き、不向きはないと思います。だいたい僕は1つの物差しで人を測るというのは好きではないんです。人様々なので、いろんなタイプの編集者がいると思います。スキルについて言えば、「朝令暮改できるスキル」というのは必要かもしれません。先程、こだわりについて話しましたが、編集者としてこだわりを持つことはとても大切だと思うんですよ。でも、それと同じくらい、「こだわりを捨てるこだわり」も必要だと思います。言い換えると、本のために「人の意見を聞けるスキル」ですね。
例えば、一昨年の文庫ベストセラー『たった3秒のパソコン術』は朝令暮改の一例と言えるかもしれません。この本は2色刷りで、一般的に2色刷りの場合は、見やすく、やわらかい印象になるという理由から、マゼンダ(赤)など、暖色系を使うことが多いんです。そこで、僕は「マゼンダ(赤)を使います」と著者の中山先生に確認したところ、「シアン(青)でいきたい」とおっしゃったんです。なぜかというと、電車の中で本を読むとき、マゼンダ(赤)だと隣の人が反射的にチラッと見るので、本に集中できないとおっしゃるんですね。「なるほど」と思いましたね。本が好きな人は、本を読んでいる時間は自分の世界に入り込みたいという方が多いと思います。そこで「シアン(青)でいきたい」という新鮮な意見をいただき、“朝令暮改”したんですよ。
つまり、大切なのは、「どうやったら自分の意見を通せるか」ではなくて、「どうやったら読者に喜ばれるか」ということなのです。ですから「これは違うんじゃないか」と言われたら、僕はコロっと意見を変えるときもありますよ。よく「気が変わるの早いね」などと言われるんですけど、それは真っ当な意見、読者に役立つ意見に納得しただけなんですよね。「読者のために反対意見を受け入れられる人」こそが、読者目線に立てる人ではないでしょうか。
(続く)

