
記憶に残る、あのヒット作はどうやって作られたのか。【あの本の裏側】では、企画の経緯から発売まで、本づくりの過程を2回にわけて紹介していきます。
第1冊目は、池田書店の『おつまみ横丁』。20万部いけばすごい、と言われる料理本ジャンルで55万部という異例のヒットを遂げています。編集担当の田口勝章さんにお話を伺いました。
偶然生まれたタイトルがきっかけ
――企画の経緯を教えてください。
スキー場の飲み屋街の地図で「横丁」という文字を見つけて、「おつまみ横丁」というタイトルだけ先に決めたんです。具体的な企画を考えたのはそれからでした。「横丁」らしくいろんな飲み屋が入っているような構成にしようかとか、ウイスキーのおつまみはどうかとか、でもそうやっていくと編集者の独りよがりになるかもしれない、とか、ぐるぐると(笑)。
編集工房桃庵の吉原さんとは友達レベルの付き合いをさせてもらっているので、彼に話して企画を錬っていきました。たとえば、友達の家で飲んでいるときに、相手が料理ばっかり作っていて飲めないのはなんだかこっちまで申し訳なくなるじゃないですか。だからそういうのはやめて、ささっと作れるものにしよう……というふうに、要は自分たちが「欲しいな」というものを積み上げていったんです。それで辿りついたのが、簡単で、少ない材料で、呑みながらでも作れるものにしよう、というコンセプトでした。
“感覚”で受け入れられた企画
――企画会議での反応はいかがでしたか?
タイトルと、おつまみで簡単なメニューの本、というのが決まったところで、いったん企画会議に出しました。会議では「まあ、やってみればいいんじゃない」という程度の反応でしたよ。当時おつまみの本でそんなに売れているものもなかったし、簡単にできるんならいいんじゃない、という感じで。
大枠が通ったので、細かい構成はそこから考えました。簡単なおつまみのシチュエーションってどういうのだろう?と。けっこう長い間悩んで、内容が詰まったところで正式に通しました。
「(この企画は)アリかナシか」という感覚は、たぶん一番難しいんですが、大切なんです。どこの出版社の会議上でも出ると思いますが、市場がこうだとか類書がこうだとか、皆を説得するための材料があると企画が通りやすいですよね。でもそれ以外にこの本は、タイトルの印象や、「新書サイズだったら2001年に『おうちで居酒屋』という本がけっこう売れたよね」とかいうことで、あまり理屈がなくてもすんなり通った感じはしました。
とにかく簡単に、シンプルに
――編集制作の過程でこだわった点を教えてください。
吉原さんと仕事するときには、編集側である程度イメージを作ってから、著者に入ってもらうことが多いんです。自分たちが作らないものは載せたくない、というのがあって。僕たちの案やこだわりをベースに、料理研究家の瀬尾幸子さんにメニューを開発してもらいました。瀬尾さんの方が経験は圧倒的に多いので、僕たちでは思いつかないメニューもたくさん出てきましたね。そこから、僕たちが作ってみたいな、食ってみたいな、と思ったもので構成しました。馴染みのあるものから「おっ?」と思えるものまで、緩急のあるメニューが揃ったと思います。
――本当に、簡単に作れるものばかりですよね。
掲載するメニューは、文字、もしくは写真を見ただけで、味がある程度イメージできるようなものを基準にしています。たぶん一般の人にとっておいしそうなものは、言葉だけでもある程度おいしさが想像できる、という域だと思うんですよ。それ以外の聞き慣れないものを提示すると、料理好きの人には良いんでしょうけど、一般の人には、なんじゃそりゃ?という感覚になってしまう。それで必然的に、普段よく食べているものとか、スーパーに行って普通に買える材料になります。

工程も、「巻いてから、揚げる」というのはナシにして、巻いただけ、または揚げただけ、の一工程にとどめました。とにかく簡単に、シンプルに、という点にこだわって、そぎ落としていったんです。その結果、読者対象としてはもともと想定していなかった、普段料理をしない人たちにも受け入れられたんでしょうね。うちの営業部でまったく料理をしなかったのが、これなら作れそう、といって始めた者もいます。
――写真からもスピード感が伝わってきます。
料理の写真は、瀬尾さんが作ってぽんっと出したものをそのまま撮っています。もっと料理がおいしそうに見えるようにすることもできたんでしょうけど、瀬尾さんはきちんとスタイリングされたものよりは料理の「勢い」を大事にする方なので、僕たちもそれを活かすようにしました。スタッフはほとんど料理には手を加えなかったです。
板を敷く、というアイディア
――この表紙は書店で目立ちましたね。
装丁もこだわりましたよ。そこのおもしろさがないと、そもそも新書サイズで料理本を出す、という意味もないので。企画のときに既に、板の上に小鉢を置いた写真で、タイトルをこう置いて、というイメージはあったんです。デザイナーさんはもちろん別案をたくさん出してくれるんですが、今回は僕の中にイメージが強烈にあったので、こちらの希望の案にさせてもらって(笑)。でも僕のイメージ以上の完成度の高いものを出してくれました。板の写真を使ったものは当時は書店になくて、会議ではちょっと暗いんじゃないか、という意見も出ましたが、結果的には書店で目を引きましたね。
(続く)









