
記憶に残る、あのヒット作はどうやって作られたのか。『日本でいちばん大切にしたい会社』第2回は、この企画にこめられた、佐藤社長の経営者ならではの思いをお伝えします。
何のために会社を経営しているのか
――もともとこういった企画を探していらっしゃったんですか?
いえ、坂本先生の話を聞いて、ですよ。私自身がお話を聞いてしっくりきたからです。
私は23歳で中経出版に入社して、中小企業向けの雑誌を作っていたんです。その間に何千人という社長さんにお会いしました。成長していった会社、潰れてしまった会社、様々ありました。編集長になって巻頭言なども見よう見まねで書いていましたが、その時から、皆さん何のために会社を経営しているんだろう、という疑問が自分の中にあったんです。お金儲けのためとか、自負心を満たすためとか、子供に譲るためとか、人の後ろに立つのが嫌だとか……。いろいろあるんでしょうが、何のためにと突き詰めていくと、よくわからなくなってしまうんですよね。お金は十分儲けてしまった人もいるでしょうし、引退したら全部終わりですし。
そうなると、結局ここに帰着するんです。自分自身のためというよりは、他人のためにやったほうが深い自己満足が得られる。誰かに「ありがとう」と言われたら、もっと感謝されることをしたくなるのが人情です。それは家族や社員でも一緒ですよね。
では誰のために、と考えると、本来社長というのは社員のために働くのがベストなんです。上場会社は株価が下がるのは致命的ですから、株主のためという論理もあるでしょう。でも中小企業や、日本にたくさんあるオーナー会社にとっては、スタンスを「社員のため」に置くのは一番自分自身が納得しやすいし、みんな幸せになる(笑)。一部上場の会社とは違う論理が中小企業には働くんですよ。たぶん多くの社長さんがこの本を読んで胸落ちしたと思います。私自身もそうでしたから。

サービスの源にあるもの
――今までこういった内容の本はなかったのですか?
良いサービスについての本はありますが、そのサービスの出本に焦点をあてた本はあまりなかったかもしれません。人に感動を与えるサービスがあって、その源にはクレドがある、クレドの源には物語がある。そこには人間の、人間に対する愛情、慈しみがあるんです。
というのを言葉で言うのは簡単ですけど、それでは「そうですか」で終わってしまう。現実に事例としてあるんですよ、と提示されたことで初めて納得できた、という面があるんじゃないでしょうか。
――読者の方の反応はいかがでしたか?
一番多かったのは、私が考えていたことは間違いじゃなかった、という反応ですね。表面には見えないですけど、けっこう社長さんたちも悩んでいますから。社員のためにやってきた経営を周囲からは「甘い」と言われたりして、この本を読んで腹に落ちた、というような声が多かったです。
会社を作った当時は野心は別のところにありますよね。私も「バスに乗っているだけでなくて、一度は自分でバスを運転してみたい」と思って会社を興しましたし。それは実現したわけですが、いざ運転してみると、乗客たちはこちらの思惑とは関係なく勝手に喋っている(笑)。時々それにうんざりしながらも、10年15年走り続けていると、そのうちに走ることが自己目的化してしまって、急に「あれ、このバスはどこへ向かえばいいんだろう」と心細くなるんですよ。そういうときに「自分は社員とその家族を幸せにするためにバスを運転していくんだ」と思い定めれば、自分が楽になる、というところもありますよね。
――掲載されている企業は社員もいい人ばかりですね。
この本に掲載されている企業には応募者も多いですから、もしかしたら入口で絞っているのかもしれませんね。社員には会社の悪口を言う人もいないし、後ろ向きの人もいない。本当に自分の会社にフィットする人だけを選んでいるのかもしれません。最初は大変だったと思いますが、だんだんそういう人で固まってきたのでしょう。社長は厳しくすべきときは厳しくしますから。そのうちにだんだん合わない社員が去り、合う社員だけが残るようになる。一方では、社員のほうが変わって会社に合ってくるというのもありますよね。たぶん社長さんたちが読むと、経営の工夫が読み取れると思いますよ。
本当は、世の中の社長さんたちは心の中では、良いことをしたくてしょうがないんですよ。ただ資金繰りに追われて何も出来ていないか、「社員のため」と思ってもやり方がわからないか。社員さんの側のスタンスも関係ありますからね。
人々に勇気を与える本を作りたい
――今後もこのシリーズを続けられる予定ですか?
1冊目ほど売れることはないでしょうけれど、今後も出していきます。今35万部ですけど、日本全国に大人って8000万人くらいいますよね。読んでいない人はたくさんいますから(笑)。
この本のおかげであさ出版の傾向というのが、ひとつ出来たような気がします。人間はいつも心の中に寂しさを抱え込んで生きている存在だと思いますが、そこをえぐるのは文芸書に任せて(笑)。寂しいから人恋しい。愛情ややさしさ、思いやりがほしい。生きていく力がほしい。ならばベクトルが前向きで、皆に勇気を与える本、明日もしっかりやろうと思えるような本づくりを版元のコンセプトとして持ちたいと思っています。
(終わり)









