
記憶に残るベストセラーの企画の経緯から発売まで、本作りの裏側をご紹介する【あの本の裏側】ですが、今回はベストセラーではなく、一風変わってロングセラーの本をご紹介します。
今回ご紹介するのは、絵本や詩集が専門の童話屋から2001年に刊行された『あたらしい憲法のはなし』と『日本国憲法』。どちらも文庫サイズで80ページという小さくて軽い、法律書のコーナーではひときわ目立つ判型の本です。でも、この本がなんと現在までに合わせて40万部を超えるロングセラーとなっているから驚き。そこで、この本を生み出した童話屋の田中さんにお話を伺いました。
熱い文章に感動したのがきっかけ
——この本を企画されたきっかけは何だったんですか。
この2冊は「小さな学問の書」というシリーズの本なのですが、子どもたちに学問とちゃんと向き合ってもらいたくて作ったシリーズなんです。
——そのシリーズの最初の2冊に、なぜ日本国憲法を扱ったものを選んだのですか。
昔、これ(『あたらしい憲法のはなし』)を読んだことがあったんですよ。
もともとこの本の原書は1947年に中学生の社会科の教科書として刊行されたものです。それを、この本を出す何年か前に、どこで開かれたか忘れてしまいましたが、教科書が一堂に展示される展覧会のようなものがあって、そこで見かけたんです。それで、懐かしいなと思って読んでみたら、すごくいい内容じゃないですか。やさしくてわかりやすい、それでいて熱血的な文章で書かれていたのでビックリしたのを覚えています。
そのときには、すでに『日本国憲法』を刊行しようと考えていたんですけど、これは是が非でもこの『新しい憲法のはなし』も一緒に刊行しなければと思うようになりました。
それで、文部省の教科書課にかけあったりしたんですけど、いいとも悪いとも言ってくれなくてね。許可するとかしないとかの範疇にないと言われて(笑) つまり、版権が切れていたんです。
——私も調べてみましたが、かなり前に版権が切れているみたいですね。インターネット上にも全文掲載されたりしていましたよ。
そうでしょう。
文部省はやっていいですよとは言わない。
でも、刊行するのはあなたの勝手ですからということを言われまして(笑)
それで、版権が切れてるなら、ということで出すことにしました。
叱咤激励の初版10万部
——どれくらい売れているのでしょうか。
それぞれ20万部くらいです。
——というと、単純計算で毎年2万部くらい重版かけているということですね。
いや、そうじゃないんです。じつは、最初に10万部刷ったんです。
——!? 初版10万部ですか。
すごいでしょ(笑)
——こ、根拠はどこにあったんですか。
根拠って言われると困っちゃうんだけどね。えーと、むちゃくちゃですよ。
——長年の勘的なやつですか?
自分を叱咤激励するため、というのが一番近いかもしれませんね。
私も含めて、多くの日本人は日本国憲法の全文を読んだことはないと思うんです。憲法9条くらいだったら知っているという程度でしょう。前文にはかなり理想が語られているということを、まるで神話のように聞いたことがあるけれど、じっくり読んだこともない。それなのに、憲法改正について護憲だ改憲だと言っている。
それで、あらためて読んでみて、自分の不明を恥じると同時に、これは日本国民としてとても大事なことが書いてあると思ったんです。そしたら、「子どもたちに読んでほしい」というお節介な気持ちが湧いてきてしまったんですね。
10万部というのは途方もない数字ですよ。そりゃあ大変です。
でもね、読者となる子どもを計算してみたんです。小学生から大学生まで合わせて2000万人くらいいるんじゃないかと。それで、こういった「想い」からこの本を出すからには、何人くらいに読んでもらいたいかを考えました。そうしたら、10%の200万人くらいには読んでほしいと思ったわけです。200万人に読んでもらいたい本が初版2万部、3万部じゃ最初から怯えているような気がして、それで初版10万部にしました。
——すごく強気ですね(笑)
強気ですよ。でも取次の人にそれを伝えたら、なんかこう、哀れなものを見る目で見られてね。せめて3万部とかにしたらどうだ、というようなことを言われたんです。
でも、いざ刊行してみたら、たった3か月で10万部売れてしまって重版がかかったんですよ、両方とも。
(続く)








