著者から直に学ぶ歓び



——著者はどのように見つけられるのですか?
僕の場合は人からの紹介を大切にするようにしています。とくに一緒に仕事をしておたがいに信頼関係ができている著者からの紹介ですね。おもしろいことに、著者になるような人は次に著者になるような人を必ず知り合いにもっているのです。ダイヤモンドの原石のような人と、たまにそうやって出会っています。なぜ人からの紹介がいいかというと、自薦ではなく他薦だから、つまり、まわりにいる人がこの人の本を読みたいと思ってくれているからでしょうね。それに、人からの紹介だと、これまで会いたくても会えなかった人にも会えることがあります。


——会うのに苦労された方はいらっしゃいますか?
僕の企画ではなく、部下に担当して作ってもらった本ですが、『3年に一度は「勝利の方程式」を変えなさい』の著者、サマンサタバサの寺田和正社長ですね。僕自身、寺田社長の本をずっと作りたくて、手紙を書いていろいろとアプローチを試みたのですが、会社の広報責任者までは会えても、ご本人と会うことはできませんでした。そしてその後、つんく♂さんの『一番になる人』という本を作ったんですけど、あるとき、つんく♂さんと寺田社長が実はお友達だということが偶然わかって、その場でつんく♂さんに「寺田社長の本をつくりたいので、紹介してください!」とお願いしたんです。そしたら、つんく♂さん自らすぐにメールを出してくれて、すべてお膳立てしてくださったんですよ。つんく♂さんに相談した3日後には、寺田社長とのアポも決まり、会いに行ったときには本を出すことがすでに決まっているという感じでした(笑)。それくらい、紹介の力というのは、決定的といっていいほど大きいものなんです。


——つんく♂さんとは、どのような流れでお仕事をされることになったのですか?
2005 年の7月に『病気にならない生き方』という本を出したところ、ある日つんく♂さんの事務所から電話がかかってきたんです。つんく♂さんがその本を読んで感動してくださったらしく、つんく♂さんがプロデュースする芝居の中で、この本の中の言葉を台詞として使いたいということでした。「今夜の焼肉より10年後の健康を選べ!」、この一言です。「もちろんいいですよ」とお答えしたところ、「チケットを送るので、よろしければ見に来てください」と誘っていただきました。初日なら、つんく♂さんも忙しい中でも来るのではないか、これは千載一遇のチャンスだと思い、「初日のチケットを送ってください」とお願いしました。それから、花スタンドを手配して贈ったのですが、普通は「サンマーク出版代表取締役社長」名で贈るところを、ここは名前を覚えていただこうと思って、自分の名前で贈りました。あんな恥ずかしいことをしたのは最初で最後ですけど(笑)。


そして芝居の初日に客席で待っていると、予想どおり、つんく♂さんがやって来られました。つかつかと駆け寄り、ちょうどその日に見本が上がってきた『病気にならない生き方 2 実践編』をプレゼントして、単刀直入に「つんく♂さんの本を作りたいんです」と切り出しました。すると、そういう場では断りにくいんですよね(笑)、「あ、いいですよ」とすんなりOKをいただきました。でも、そのとき実は、企画内容はなんにも考えていなかったんです(笑)。ただ作りたい、その思いだけです。その後、多忙を極めているにもかかわらず、本作りのためのスケジュールを優先的に組んでくださったのには驚きましたね。これはそうとう本気だと。そして全体の方向づけから原稿の細かな直しまで含めると、それこそ何十時間という贅沢な時間を一緒に過ごさせていただきました。しーんとした部屋の中で、真剣な顔つきのつんく♂さんがカタカタとキーボードを打つ光景が今でも脳裏に焼きついています。夜12時近くまでかかって原稿のあとがきを目の前で書いてもらい、がっちりと握手を交わしたときは、お互い「よっしゃー」って感じでちょっと熱くなりましたね(笑)。つんく♂さんご自身が作り手なので、僕自身、本の作り手として、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。


——やはり著者さんから学ぶことは多いのですね。
それこそが、編集者という人種にとって、一番の歓びですよね。普通では会えない人に会えることに加えて、その人の「本」からではなく、その人「そのもの」から直接学べるなんて、これ以上の幸せはありませんね。生かせているかどうかは別として(笑)。



自分の「悩み」を振り返る



——幅広いジャンルを手がけられているのですね。
単行本の編集者として初めて作った本は、10年前に出した『おなかの赤ちゃんとお話ししようよ』という絵本なんです。たまたま僕の女房が妊娠しまして、妊娠すると精神的に不安定になりますよね。そういう妊娠した女性の心をリラックスさせる本をつくれないかと思って企画しました。うちの会社としては初めての絵本で、社内ではノーマーク(笑)。初版7千部でスタートしたのですが、ロングでこつこつ売れていまして、現在12万部の売れ行きです。この後もシリーズ展開して全部で5冊出しており、累計30万部までいっています。


——お料理の本も作られているのですね。
この企画も女房を観察している中で生まれました。出産後、当然お母さんたちは子供の食事に気を使うようになります。でも忙しくて、なかなか手の込んだ料理を作れない、というジレンマがあるのではないか、と気づいたんです。「手早く、ラクして、おいしい料理が作れる本」ということで、奥薗壽子さんの『ズボラ人間の料理術』という本を出しました。これも初版6千部の地味なスタートだったのですが、現在8万部。シリーズ第二弾は12万部と、累計で35万部の売れ行きとなっています。奥薗さんと出会ったのも、じつは人からの紹介なんですよ。


——「ズボラ人間」というのが目を引きますね。
当時の料理雑誌では「ズボラ」なんていうのはタブーだったらしいのですが、僕自身、料理本の編集に関してはまったくのド素人で、それどころか料理すらほとんどしたことがない(笑)。でも、奥薗さんの料理術を聞いて、「これはおもしろい!」と感動したんです。そのように、知らない者の強みを生かして、ジャンルにはこだわらず幅広くやっていますね。


——企画を立てるときはどんなところに注目されているのですか?
今お話しした本のように、身近な人を観察して、ときには自分を振り返って、「悩み」に焦点を当てるようにしています。例えば「体重が増えた」とか「彼氏がいない」であったり、「会話が苦手」とか「健康に不安がある」とか、人は誰でも悩みがあって、そして自分の悩みは意外と他の人と共通しているんです。つまり、広くて深い「悩み」をテーマに本を作れば、広範な読者を対象に購買動機の強い本をつくることができる。でも、「好き」をとことん求めていくと、どんどん細分化されて、読者が減っていくような気がするんです。スポーツが好きといっても、ゴルフが好きなのか、テニスが好きなのか。スポーツだけでも何十種類もあるじゃないですか。もちろん人は、この著者が好きだからとか、旅行やガーデニングが好きだからとかで本を買うこともあるけど、僕の場合は「悩みを解消するための本」のほうが作り手の適性として向いているようです。それだけ、「悩み多き人間」ってことなのかな(笑)。


(続く)

3年に一度は「勝利の方程式」を変えなさい
「3年に一度は「勝利の方程式」を変えなさい」
 [単行本(ソフトカバー)]
 著者:寺田 和正
 出版:サンマーク出版
 発売日:2009-07-20
 by ええもん屋.com
一番になる人
「一番になる人」
 [ハードカバー]
 著者:つんく♂
 出版:サンマーク出版
 発売日:2008-08-05
 by ええもん屋.com
おなかの赤ちゃんとお話ししようよ
「おなかの赤ちゃんとお話ししようよ」
 [単行本]
 著者:葉 祥明
 出版:サンマーク出版
 発売日:2000-03
 by ええもん屋.com
ズボラ人間の料理術
「ズボラ人間の料理術」
 [単行本(ソフトカバー)]
 著者:奥薗 壽子
 出版:サンマーク出版
 発売日:2001-11-05
 by ええもん屋.com

サンマーク出版 高橋朋宏さん Vol.2

更新日: 2010年 7月 20日| このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをYahoo!ブックマークに追加このエントリをFC2ブックマークに追加このエントリをNifty Clipに追加このエントリをPOOKMARK. Airlinesに追加このエントリをBuzzurl(バザール)に追加このエントリをChoixに追加このエントリをnewsingに追加

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